長周期地震動対策について語る独立行政法人都市再生機構(UR)・技術統括課の橋本憲一郎主幹(左)と保全企画課の田中郁恵主幹

もっと大きな揺れの可能性

 13年、日本建築学会は東日本大震災などの長周期地震動のデータを盛り込み、研究成果をまとめた。その3年後には、国交省は南海トラフ巨大地震による長周期地震動を想定した「設計用地震動」を公表。新規の超高層ビルについてはこれを検討した設計を義務づけたほか、既存の超高層建築物については、この値に基づく安全性の確認を推奨した。従来の設計用地震動(告示波)の継続時間は120秒までだったが、「500秒以上」に延長された。

「長周期地震動で気を付けるべき問題の一つは揺れの長さです。例えば、針金を繰り返し変形させると、ポキッと折れてしまう。同様のことが柱と梁の接合部で起こる可能性がある」

 もう一つは揺れの強さだが、国交省が設定した設計用地震動の揺れの強さは、想定されるすべての地震をカバーしたものではないという。

「値は揺れの予測値の平均を示したものです。実際の地震の揺れは上回る可能性があるため、良識あるゼネコンは余裕を持たせた設計をします。私が関わった東京都庁の制震改修工事でも、施主との話し合いを経て、そうした設計を心がけました」

 東京都庁第一本庁舎の改修では地震のエネルギーを吸収する「ダンパー」を柱の間に94カ所設置した。

 屋上に揺れを抑えるTMDと呼ばれる「おもり」を設置する方法もある。新宿三井ビルディングなどの改修で採用された。小鹿さんは言う。

「タワマンの制震改修なら、TMDが適用しやすいのではないでしょうか。建物内部の住戸にからむ工事が必要ないので、生活に大きく影響しません」

独立行政法人都市再生機構(UR)が入居する超高層ビル(中央)=神奈川県横浜市、米倉昭仁撮影

何も変わらない現状

「どうすれば状況を変えられるのか。耐震補強のいい技術は開発されているのに」と、小鹿さんは言う。

 特に心配なのは湾岸部に建てられたタワマンだという。

「東日本大震災の際、東京湾岸の超高層マンションは内陸部のものよりも明らかに大きく揺れました」

 日本建築学会の報告書は、「軟弱地盤の影響」としている。

 今年8月8日、宮崎県沖の日向灘を震源とする大地震が発生した。気象庁は初めて「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。

「南海トラフ巨大地震は近い将来、ほぼ確実に発生するでしょう。東日本大震災を上回る長周期地震動が想定されています。それに備えて既存のタワマンは安全性を確認してほしい」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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