タワマンが林立する東京都中央区勝どき地区=米倉昭仁撮影

タワマン耐震診断「申請ゼロ」

 首都圏のタワマンで初めて「長周期地震動対策」の実装を明言したのは、「パークタワー東雲」(東京都江東区)だ。竣工は2014年。

 不動産経済研究所によると、その前年までに首都圏では758棟のタワマンが建てられている。

 2016年、国土交通省は3大都市圏などの対象エリアを示し、それ以前に設計された超高層建築物について、一定の長周期地震動を考慮して安全確認をするように指導した。さらに、南海トラフ沿いの巨大地震ではより大きな長周期地震動が生じて、損傷が進む可能性があり、必要に応じた補強などの措置を講じることが望ましい、とした。

 建物の構造に、揺れに対する余裕が少ない場合、長周期地震動で梁や柱の接合部周辺に損傷が生じる可能性がある。

 賃貸住宅事業を行う東京都住宅供給公社は、既存のタワマンについて、「国交省が定めた検証方法に基づき、長周期地震動に対する安全性を確認しております」。UR都市機構も「安全性の確認を進めている」という。

 ところが、既存の分譲タワマンでは、安全性の確認が一向に進んでいない。国は超高層ビルの長周期地震動に対する影響検討(耐震診断)や補強工事に対して補助金制度を設けてきた。ところが、いまだに既存のタワマンからの申請は「ゼロ」なのだ。

大手ゼネコン・鹿島建設で制震技術の研究開発に取り組んだ小鹿紀英さん(現・トクオ)=東京都内、米倉昭仁撮影

研究開始は2003年

 国だけでなく、自治体も進まないタワマンの長周期地震動対策を憂慮する。

 3年前、東京都中央区の担当者が長周期地震動対策に詳しいNPO建築技術支援協会の小鹿紀英さんを訪ねてきたという。中央区は勝どき地区を中心に、タワマンが林立している。

「対策を推進したいので、住人向けにオンラインで講演をしてほしいという依頼でした」と、小鹿さんは振り返る。

 超高層ビルの長周期地震動対策として有効なのは、揺れのエネルギーを吸収する「制震」システムなどの導入だ。

 建設業界で長周期地震動が知られるようになったのは、2003年に発生した十勝沖地震からだ。震源から約250キロ離れた苫小牧市内で、大型の石油タンクだけが被災して大火災が起こった。

「十勝沖地震の長周期地震動がタンク内の石油の揺れと一致して増幅する『共振』という現象が起きた。これは超高層ビルにも当てはまるので何とかしなければならない、ということで研究が始まった」(小鹿さん、以下同)

 日本建築学会などの研究で中心となって動いたのは大手ゼネコン5社の委員だった。

「すでに多くの超高層ビルが建っており、どう長周期地震動から守るかが課題でした」

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耐震補強技術は開発されているのに