膨らむデジタル赤字、それでも負ける日本企業

 経産省は苦し紛れに、「3メガ、ラピダスに出資へ 計150億円、政投銀も100億円 半導体量産化へ資本増強」「ラピダスに事業会社も追加出資意向 NTTやソニーG」という見出しの記事(9月27日及び28日付日本経済新聞)を書かせている。最初の記事では、3メガが出すのは1行あたり僅かに50億円という端金だ。必要額よりはるかに小さい。そレを引き出すために政府系の政策投資銀行はその2倍の100億円を出さざるを得ないわけだ。28日の記事では、既存株主である事業会社も追加出資すると報じた。しかし、その額は不明でしかも金融機関も含めて、出資は25年半ばあるいは25年以降という非常に曖昧な内容だ。26年になるのかもしれない。本来、有望だと思えば、今出資するはずだが、そんなことをすれば、役員は特別背任罪に問われる恐れすらある。半導体を喉から手が出るほど欲しがっている他の事業会社にも相手にされていないことも伝わってくる。このプロジェクトの見通しの暗さの象徴だ。

 ちなみに、兆円単位の民間融資にもし異例の80%というような政府保証が付けば、銀行としては、これから金利が上がるので、1兆円融資で、年間50億円の金利を稼ぐことが可能だ。4年貸せば、200億円だから、8割保証なら、とりあえず焦げ付いても大損は免れるので、プロジェクトの失敗がわかっていても、なんとか融資は可能になる。しかし、80%の損失を被る国民から見れば、とんでもない話だ。

 ラピダスの失敗の他にも大きな問題がある。それは、経産省が生成AIデータセンター建設に莫大な補助金を出しつつあることだ。生成AIを発展させるためには、生成AI用データセンターが必要だ。それを急いで建設するために、補助金をつけて建設を進めるのは良い政策だと思えるが、実はこれが大変な失敗に終わりそうなのだ。

 今、日本では生成AI用データセンターバブルが起きている。大小合わせれば数百の計画が動き出しているようだ。今や、データセンターをつくると言えば、資金は簡単に集まる。それに向けたリート(不動産投資信託)も組成されはじめた。土地を造成してデータセンターの建屋を建設し、中にはサーバーを設置するためのラックが置かれる。そこまでは誰でもできるのだが、その先が地獄になる。現在、先端半導体の設計開発は米エヌビディアの、製造はTSMCのほぼ独占状態だ。GAFAMやテスラなどの巨大テック企業がそれを奪い合い、数年先までTSMCの製造ラインは埋まっている。日本企業が売ってくれと言ってもほとんど相手にされない状況だ。数年経てば需給は緩和されると経産省は思い込んでいるかもしれないが、世界中でものすごい勢いでデータセンターが立ち上がりつつあり、むしろ需給はさらに逼迫すると言われている。日本企業が買い負けるのは必至だ。

 その結果、26年ごろには、データセンターのハコモノが全国に出来上がり、中が空っぽという状況が出現する。多くのデータセンターは、資金繰りに窮し、破綻も続出する。それを狙って、米テック企業がハコモノを安値で買い叩く。彼らは半導体を調達できるから、たくさんのデータセンターができるかもしれない。しかし、それを利用する日本企業は、米企業に利用料金を支払うので、今でも5兆円を超えるデジタル赤字はさらに増える上にAIの首根っこはアメリカが押さえるということになるのだ。

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