石破新首相と武藤新経産大臣が気をつけるべき選択

 こんなバカな政策は早く改めるべきだが、おそらく経産省は、24年度補正予算や25年度本予算で、関連の資金確保を目指すだろう。総選挙が近いこともあって、石破新首相も就任が予定される武藤容治・新経産相も派手な成長戦略の政策をぶち上げたい。­生成AIや先端半導体の夢のあるプロジェクトは格好の題材だ。そこで、「ラピダス」「生成AIデータセンター」という言葉を入れた首相や大臣の発言要領がすでに用意されているはずだが、決して、無条件にこれを推進するというようなことを言ってはいけない。

 むしろ、今進めている政策を早急に見直し、これまでよりさらに強力で確実性が高く、しかも高い目標を持った政策をなるべく早く打ち出したいというような発言にとどめ、新しい政策の導入までの時間を稼いでほしい。

 では、既存の政策に替わる新しい強力な政策とは何か。

 実は、エヌビディアの半導体の性能を上回り、15年に世界の省エネスパコンランキングでトップに立って、一時はトップ3を独占したペジーコンピューティングという日本企業がある。ペジーは、自社開発の5ナノレベルの半導体に、新しい冷却技術(本コラム7月23日配信「スーパーコンピューターの第一人者『齊藤元章氏』が生成AIで日本のゲームチェンジャーになる日」参照)を用いることで3ナノレベルの性能を出す技術の開発に成功している。その半導体は試作段階にまで入ったようだ。資金さえあれば、TSMCの5ナノのラインはこれから空きが出てくるので、短期間で量産に入ることも可能だ。

 さらに、同社のグループには、生成AIに必須でこれまた需給が逼迫しているHBMという最先端メモリーの設計開発を手がけるウルトラメモリという企業もある。破綻したエルピーダメモリで世界最高の技術を有していたチームがペジーで働きたいと言って集ってきたのだ。

 このグループを核にすれば、世界でも韓国のサムスン以外にない、GPGPU(汎用生成AI用半導体)とHBMを同時に設計開発でき、しかもエヌビディアなども解決できない最大の難問である新冷却技術までを網羅する生成AI技術の世界的リーダーが生まれる可能性が高い。しかも、彼らの話では、とりあえず100億円もあれば、民間の資金中心で開発が可能だという。ラピダスとは正反対の話だ。ちなみに、世界最高峰と言われる台湾工業技術研究院が彼らと共同研究を始めたことがその将来性を証明している。生成AI用半導体不足解消が可能になり、アメリカから独立した日本独自の生成AIの開発利用が可能になるのだ。

 しかし、彼らには経産省からの補助金が出ない。なぜなのか。それは、ラピダスのライバルだからというだけではない。経産省にとって都合の悪い事情があるからだ。その話は、あらためて紹介することにしたい。

 今回言いたかったのは、最初の段階で官僚に騙されて、こうした金のかからない、しかも、全く新しい可能性を切り開く正しい政策に転換する道を閉ざすようなことだけは避けるべきだということだ。

 ぜひ、石破新首相と武藤新経産相に参考にしてもらいたい。

 (実は、エネルギー政策についても同じことが言える。さらにエネルギーとAI/半導体とをセットにした地方創生の秘策もあるが、別の機会に紹介することにしたい)

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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