朝ドラ「虎に翼」が最終回を迎えた9月27日の新聞は、袴田巌さんに無罪判決が出たというニュースでいっぱいだった。検察が10月10日までに控訴しなければ無罪が確定する。これはもう完全に検察トップ、検事総長の判断だろう。で、検事総長は今年の7月から女性だ。畝本直美さん、女性初の検事総長。
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歴代総長=全員男と比較して、畝本さんは組織の論理、つまりは面目だとか一貫性だとか、への拘泥度が低いのではないか。同性として経験的、直感的に思うことだ。けれど畝本さんの地位は組織とうまくやってきたからこそで、その意味で畝本さんは組織の論理を重々承知に違いない。そんなこんなを考え、こう思った。畝本さんの心の中に、寅子(伊藤沙莉)がいるといいのだけど。
寅子は後半、出世した。非正規の特例判事補から始まり、最後は横浜家裁所長に。出世に伴い「はて?」が減っていった。男社会への疑問の表明が「はて?」だとすれば、男社会の一員になり、評価された寅子が口にしにくくなるのは当然だ。
もちろん男社会の中で悩み、抗い、闘う寅子を十分に描くのが「虎に翼」なのだが、やはり痛快感は下がった。「下々の心もわかるエリートのお話」みたいになってきたなー、と感じることも多々あり、その都度、心の中で小石を蹴っていた。
そんな寅子の“本性”を見たのは、物語の終版で「ブルーパージ」が描かれた時だった。リベラルな考えを持つ青年法律家協会(ドラマでは「勉強会」)所属の裁判官たちに、次々左遷人事が出される。大いなる疑問をもとに、寅子は最高裁判所長官・桂場(松山ケンイチ)を長官室に訪ねる。桂場は「俺の指示だ」と言い、「左遷の必要」について滔々と語った。そこで寅子が「純度の低い正論は響きません」と反論する。
正論は純度が高いほど威力を発揮する。非正規時代の寅子にそう言ったのは、人事課長だった桂場だ。見栄や詭弁が混じっていてはダメだ。そう言っていた。桂場と寅子は寅子が明律大学女子部法科入学前からの長い知り合いだった。そうだとしても、この時の寅子は東京家庭裁判所少年部部長で、トップと1人の部長だが寅子はひるまなかった。かつて桂場自身が使った言葉を織り込み、最後には「何を守り、何を切り捨てるべきか」再考すべしと訴えた。