「思い上がるな、立場をわきまえろ」。桂場はそう言った。「出ていけ」と重ね、寅子は「お忙しい中、お時間を作っていただき感謝します」と部屋を出た。組織内でしのぎを削るエリートの立ち居振る舞い方と、その緊張感が伝わってきた。同時に寅子の気迫と信念あふれる行動に真のエリートの存在意義を実感、出世した寅子を見続けた意味がわかった気がした。

 畝本さんというエリート中のエリートにとって、袴田事件は正念場になるだろう。「何を守り、何を切り捨てるべきか」。寅子の桂場への言葉は、畝本さんへの言葉でもある。以上が、畝本さんの心に寅子がいてくれたらと思う理由だ。国民は、純度の高い正論を待っている。

 と、すっかり現実と寅子をごちゃ混ぜにする私だが、それほどに「虎に翼」は脳内浸透度の高い朝ドラだった。司法関係者、ジャーナリスト、母親、LGBTQの当事者……いろいろな人がメディアでSNSで、「寅子=自分」ととらえ、そこからさまざまなことを論じていた。寅子の向き合う課題がすべて「今」であり、現実の当事者の心に寄り添おうとする姿勢で描かれたからに違いない。

 最終回を見終えて、「虎に翼」が訴えたのは「その人がその人のままで生きられる大切さ」と「それを尊重し合う関係の尊さ」だったと思っている。

 最終回の前日、最初の夫・優三(仲野太賀)が寅子の前に現れた。というか、星&佐田家に座っていた、出征した時の服装で。娘・優未(川床明日香)とのやりとりを見ていて、優未が出かけると幽霊の優三が「寅ちゃん、約束守ってくれてありがとね」と言った。

 約束とは、出征前のあの約束だとわかる。2人だけで川辺で語り合った最後に、優三は「寅ちゃんにできるのは、寅ちゃんの好きなように生きることです」と言ったのだ。弁護士を辞めていた寅子だったが、また弁護士をしても、他の仕事をしても、優未のいいお母さんでもいいと言った。「頑張る」という言葉を口にしかけて、「やっぱり頑張ってくれなくていい、寅ちゃんが後悔せず心から人生をやりきってくれること、それが僕の望みです」。肩書きも努力も要求しない優三。寅子へのまるごとの肯定で、つまりこれが愛なのだと感じた。

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「はて?」は自己肯定感が前提