よねは言葉は少なく、誰かに心を開くのが苦手だ。農家の次女として生まれ、女郎屋に売られそうになって逃げてきた。行き着いた上野のカフェで男装をし給仕として働いたのは、女を捨てたからだ。その格好で明律大学に通い、そのままの格好で戦前に司法試験を受け、面接で「トンチキな格好」と言われて反論、落ちた。
男装で自分を守っている、と論じている人もいたが、男装はもうよねそのものだ。そして、そういうよねをまるごと受け止めてくれる人がたくさんいたから、よねはどんどん優しくなった。後半はそんなよねを見られて、うれしかった。
もちろん山田轟法律事務所のパートナー轟太一(戸塚純貴)との関係もそうだ。轟が同性にひかれていることに気づいていたよねは、今の表現に置き換えるなら「カミングアウトしろとは言わない」という趣旨を轟に伝え、「私の前で強がる必要はない」と言った。轟とよねは「尊属殺重罰事件」の原告を弁護した。よねは大法廷での弁論で、「畜生道に堕ちた父親を尊属として保護するのが人類普遍の道徳原理だというなら、社会も畜生道に堕ちたと言わざるをえない」と論じ、こう付け足した。「いや畜生以下、クソだ」。
クソは、よねが男を強く批判する時の常套句だ。裁判長(桂場だ)から「言動に気をつけよ」と言われ、轟は立ち上がり「不適切な発言でした」と詫びてみせ、よねにこうささやいた。「いけ、山田」。2人の信頼関係。肯定感。大好きなシーンだ。
そして最後にもう一つ、よねへの肯定の話を。同級生・涼子(桜井ユキ)は男爵家の娘だから、戦後は没落する。消息不明だったが、新潟で喫茶店を開いていた。喫茶店の名前は「ライトハウス」だ。そのことを知ったよねが、少し反応する。よねのいたカフェの名前が「灯台」だったからだ。「灯台新潟支店」なのだと説明し、「ご迷惑でしたか?」と尋ねた。よねの答えは、「いや、マスターも喜んでいる」。
マスターは、最初によねを肯定してくれた人なのだ。男装で給仕の仕事をすることを認めてくれた。そのマスターは空襲で亡くなった。よねは今も、ツーショットの写真を山田轟法律事務所に飾っている。事務所は焼け残ったカフェ灯台だ。
よねとマスターと涼子。肯定感は一緒にいる人同士でつくるものとは限らない。離れていても、肯定しあえる。それが確かに人を幸福にする。「虎に翼」がそんなシンプルなことを教えてくれて、そう思うとまたちょっと泣けてくる。
(コラムニスト・矢部万紀子)