AERA 2024年9月30日号より

 ある日、ミキさんは「ボスママ」から「話を聞いてあげるから」と呼び出された。PTA室には他の役員4人も待っていた。

 ミキさんが改めて改革を訴えると、「鼻で笑われた」。説明しても「絶対無理」「機械に強い人しか無理」とにべもない。

「他の役員は自分たちがターゲットになると困るからか、一緒になって、『先輩を敬って言うことをききなさいよ』。紙をひらひらさせて、『紙があれば大丈夫』と言っていました」

 味方のいない密室で、取り囲まれて5時間が経過した。絶望感が募った。ボスママは言った。

「これからは黙っていうことを聞いてくれる?」

 沈黙していると、「返事は?」とたたみかけられた。

「『はい』とは言ったものの、悔しくて涙が出てきた。ボスママはニヤッと笑っていました」

 小さないじめと思うだろうか。記者も地元の小学校PTAで会長をしていたとき、活動の見直しを提案した役員が陰湿な嫌がらせを受けた話をよく聞いた。記者自身も同様の目にあった。

 記者が所属したPTAでは、古参役員らによる会則を無視した運営が横行、不正会計と受け取られかねない行為もあった。指摘すると、「今までこのやり方でやってきたんです!」。

 心を削られたのは、「席」の嫌がらせだ。会議の際、長机のつなぎ目に座ることを強要し、「お仕置きだから」と役員全員の前で言い放つ。地域の自治会役員を交えた会合では、議長の隣のはずのPTA会長席が会議室の隅に置かれた。参加者は顔を引きつらせたが、「ボスママ」は「これでいいの」と笑った。

 ミキさんは翌春のボスママらが役員の任期を終えるのを待ってから、改革に着手した。ミキさんを突き動かしたのは、「大人のいじめの温床になっているPTAを、このまま放っておけない」「自分の代で止めたい」という思いだった。今春、ミキさんはPTAを解散し、新たに保護者の会を立ち上げた。姫路市では初のケースだという。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

AERA 2024年9月30日号より抜粋、加筆

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