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 7月に行われた総合格闘技「超RIZIN.3」のメインイベントで、勝者である平本蓮にドーピングの疑惑があがった。本人もRIZIN側も記者会見を開いたが、腑に落ちない点もある。どうしたら、これまでのようにスッキリと試合を楽しめるか? 当サイトで格闘技の記事を書いてきた小説家・榎本憲男さんによるコラムをお届けする。

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説得力に欠けた記者会見

 野球やサッカーフィギュアスケートとちがい、興味のない人はまったく知らないのが総合格闘技だが、その商圏は決して小さくはない。そして、この総合格闘技界隈がいまざわついている。なぜなら、先日おこなわれたビッグイベント「超RIZIN.3」のメインイベントにドーピングの疑惑が起きているのだ。勝者である平本蓮が禁止薬物を使用したという告発がなされ、主催者であるRIZINが記者会見を開いて説明したにもかかわらず、納得できないファンがSNS上で不満を表明しつづけている。そもそもRIZINの榊原信行CEOも「(対戦相手の朝倉未来が引退を懸けて臨んだ試合に)泥を塗ってしまった」などと記者会見で発言しているのである。

 長くなるので、経緯を極端にはしょって説明する。平本蓮にかけられている疑惑は、知人の格闘技選手から摂取してはならない薬物をそれと知りながら購入し、注射器を使って臀部に打ったのではないかというものだ。この格闘技選手とのやりとりの音声データ、禁止薬物の見積書、銀行振り込みの記録などがSNS上で公開され、当然、大変な勢いで拡散した。RIZIN側は検査の結果を待って記者会見すると発表した。また、それに先駆けて平本蓮が独自に会見を開いて無実をアピールしたが、これが著しく説得力に欠けた。また、ようやくRIZIN側が開いた会見の内容は、煎じ詰めると、①尿検査の結果は陰性。②ゆえに当該の試合は成立し、平本の勝利はゆるがない。③今後はこのような疑惑が生じないように検査を厳しくすることを検討する。以上の3点であり、ファンからはそっけないものに映った。

 問題は、“陰性”であって“シロ”ではないことにある。「陰性であるがゆえに、“疑わしきは罰せず”」。RIZIN側はそう言っているにすぎない。そして、RIZINは自分たちにはこれ以上できることはないとさじを投げている。そして格闘技ファンには、「平本はドーピング検査で陰性の結果が出ると見越した上で、禁止薬物を使った」という疑いが残り続けている。以下、端的にそのような疑いが生じる理由を挙げる。

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榎本憲男

榎本憲男

和歌山県出身。映画会社勤務の後、福島の帰還困難区域に経済自由圏を建設する近未来小説「エアー2.0」(小学館)でデビュー、大藪春彦賞候補となる。その後、エンタテインメントに現代の時事問題と哲学を加味した異色の小説を発表し続ける。「巡査長 真行寺弘道」シリーズ(中公文庫)や「DASPA吉良大介」シリーズ(小学館文庫)など。最新作の「サイケデリック・マウンテン」(早川書房)は、オール讀物(文藝春秋)が主催する第1回「ミステリー通書店員が選ぶ 大人の推理小説大賞」にノミネートされた。(写真:中尾勇太)

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