まず、平本蓮の弁明を聞こう。知り合いの格闘技選手から禁止薬物を購入するにはした。しかし、それは使わなかった(大意)と平本は言う。これに対してネット上では、「ラブホテルに入るには入ったがことには及ばなかったので、浮気ではないと言っているようなものだ」(大意)という、いささか品のない、しかし比喩としてはわかりやすい形で疑問が呈された。このような疑惑を払拭するには、会見の席上で、「はいこの通り、開封もしておりません」とその物品を見せれば説得力はいささかなりとも増す。しかし、そうはしていない。当然「できないからだ」という疑惑が生じる。また、けがの回復のために禁止ではない薬物をトレーナーに薦められ、自ら尻に注射したとも認めているが、そのトレーナーは誰か? その薬物とはいったい何かも明らかにしていない。そして、RIZIN側もそこには踏み込まない。これでは、陰性という検査結果を伝えられただけで、平本蓮選手の潔白を証明するものにはなっていないとファンが感じるのは当然なのである。

WADA(世界反ドーピング機関)よりもユルいRIZINのルール

 そのことは主催者であるRIZINも自覚しており、決して平本蓮を潔白だとは言わず、陰性であったがゆえに試合は成立するということを強調するにとどめている。ファンが憤るのはここだ。主催者であるRIZINはなぜ、上に挙げたような当然生じる疑惑を追及しようとしないのか。また、今回おこなった尿検査はWADA(世界反ドーピング機関)の基準に該当するもので、その結果は重んじられるべきだという趣旨の発言もおこなわれたが、榊原信行CEOも思わず漏らしたように、WADAの基準を厳密に適用すれば、正当な理由なく禁止薬物を所持していることだけでも許されないのであるから、今回の平本蓮のケースはアウトになる。しかし、現状のRIZINのルールではそこは明記していないからセーフという理屈である。WADAという権威で尿検査の信憑性をアピールしつつ、実はWADAよりもユルい。これでは、平本寄りのダブルスタンダードであるようにファンは感じてしまう。RIZIN側が平本蓮に疑惑について追及しないのは、チケットが売れる人気選手をここで潰したくないという腹があるからだ、という臆測も当然生まれてしまうのである。

 RIZINが事実を検証しない理由は「僕らはそのような立場にない」という榊原CEOの発言に尽きる。RIZINは「超RIZIN・3」という格闘技の大会のプロモーターであり、選手のマネジメントをしているわけではない。大会の運営者としてはルールに則って進めていくしかない。現状のルールではRIZINがやれるのはここまで、という認識である。実は、この説明はある意味スジが通ったものである。「手続き主義」こそが「正義」だという考え方は、現代社会を全面的に覆いつつある。そして、この「正義」が感情をこじらせるのである。

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手続き主義こそが正義?!