古賀茂明氏
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 EV(電気自動車)懐疑論が急拡大している。

【写真】日本の自動車メーカーの救世主?と言われるのはこの人

 米欧でEV販売が減少ないし停滞し、中国でも伸び率が下がっていることが最大の要因だ。また、短期的要因と長期的な見通しとを区別せずに議論することで真実が見えにくくなっている面がある。

 今回は、それらを整理しながらEV懐疑論について考えてみたい。

 EV拡大の第1段階は、EV専業メーカー・米テスラの急速な台頭によるものだった。これに伴い、EVへの期待が一気に高まった。

 脱炭素に熱心なEUでもEVがもてはやされ、政府の補助金などで、さらにEV化が進んだ。

 だが、EV拡大を決定づけたのは、世界最大の自動車市場である中国における爆発的EV化の展開だ。その火付け役は、皮肉なことにテスラの上海工場だった。テスラは、中国人の間でも大人気となったが、そこから学んだ中国の自動車メーカーが一斉にテスラの真似から入り、すぐにテスラ超えを目指したのだ。

 EVシフト急加速の象徴が、電池メーカーから始まったBYDだ。

 テスラを最初に支えた電池メーカーは日本のパナソニックだったが、同社には、テスラしか本格的にEVをつくる顧客がいなかった。一方、韓国のLGや中国のCATLなどは自国内にEV化に熱心なメーカーがあり、安心して積極的な拡大投資ができた。増産投資に消極的だったパナソニックはあっという間に置き去りにされ、今や車載用電池市場で世界4位(2023年)に転落し、シェアも1桁まで落ちてしまったのだ。

 一方、車載用電池の需要急拡大の波に乗ったメーカーがBYDだった。

 BYDは、電池にとどまらず、EV製造に参入したが、短期間でテスラと並び、さらにはこれを追い越すところまで来た最大の理由は、電池を自社生産しているために、コスト面で優位性があったからだ。

 中国でEVを急拡大させたもう一つの大きな要因が、政府によるインフラ整備と補助金政策、さらに様々なEV優遇政策がある。

 これにより充電ステーションが都市部を中心にものすごい勢いで広がった。また、大都市では、新車を購入する際に必要な新規ナンバープレートの取得で新エネルギー車(EVやPHV=プラグインハイブリッド車など)を優遇する政策をとったために、早く新車を手に入れたいユーザーにEVが一気に広がった。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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