日本の「お家芸」のはずが、ひらく世界と差

 一方、PHVがバカ売れしてもEVは減速しているではないかという疑問もある。

 確かに、7月のBYDの乗用車販売のうち、PHVは前年同月比67%増の21万799台だったのに対して、EVは4%減の13万台だった。しかし、8月は、PHV73%増の22万2384台で、EVは2%増の14万8470台と持ち直している。

 この数字をどう見るべきか。 

 単純に見ると、BYDでさえ、EVの伸びがマイナスになることもあるくらいだから、やはりEVの将来性はなくなったのではないかと思うかもしれない。

 しかし、中国全体で見ると、7月と8月の新車販売(輸出を含む)が全体で各々5.2%、5%の減少、国内だけだと、10.1%、10.7%の大幅な減少だが、PHVは80.7%、81.6%の大幅な増加、そしてEVも2.6%、8.3%の増加と、増えている。

 欧州の中国製EVへの追加関税の影響が出てきたことで、EVの輸出は減少になっているが、PHVはEUの追加関税の対象外なので、中国メーカーは、そちらにシフトしたようだ。

 BYDのEVの伸びの鈍化も、PHVの売れ行きが良いので、生産をそちらにシフトしたと見ることも可能だ。

 さらに、よく考えると、EVの販売鈍化の最大の原因は、中国市場が不景気で成長しない状況にあることにある。市場全体が縮小する中でも、EVは依然として増加を続けていることを見ると、EVの時代が終わったと言えないことは確かだろう。

 今後、海外での関税引き上げに対応するために、BYDは海外生産を強化する。欧州向けではハンガリーやトルコでの生産計画が発表され、タイでは7月に生産が始まった。パキスタンでも生産する予定だ。中南米を視野に入れてメキシコでの生産も検討中と報じられる。

 海外生産で、高関税を回避できれば、再びEVの伸びが回復する可能性もある。特に、EUの排ガス規制が強化される28年に向けて、再びEVシフトが強化されるだろう。

 上に見たとおり、PHVは非常に魅力的な選択肢だ。

 ここで圧倒的な強みを持つBYDは、EVとPHVを各国市場の特性に応じてうまく組み合わせて販売することが可能なので、非常に有利だ。PHVで儲けて、EVに投資して磨きをかけるという戦略も有効だ。

 しかし、PHVはガソリンを使うことを忘れてはいけない。脱炭素の要請は今後ますます強まる。PHVはHVに代わる過渡的な手段として優位に立つが、いずれはEVに取って代わられる運命だ。

 その変遷の速度を予測するのは困難だが、少なくとも、ごく短期間の勢いだけで、物事を判断するのは控えるべきだ。

 いずれにしても、日米欧の既存の大手メーカーが深刻な危機に見舞われていることだけは確かである。

 なお、今回はBYDの強みに焦点を当てたが、そのBYDも盤石というわけではない。

 今後の最重要課題となっている自動運転の競争では、BYDは先頭ランナーではないからだ。自動運転のリーダーだったテスラとファーウェイが熾烈な競争に入っているが、その競争で弾き飛ばされれば、BYDといえども、ただの自動車製造下請けメーカーという地位に転落してしまう。

 今後の自動車市場での競争は、電気で走ること以外にその車にどれだけの付加価値があるか、さらには、自動車を含めたあらゆるIT機器を繋げた生活圏で何をできるか、それらを通じて、どんなライフスタイルが実現できるかという競争に入った。

 日本の自動車メーカーは、1周どころか2周、3周遅れている。

 トヨタと言えども安泰ではないことを日本の政府も国民もしっかり認識しておくことが重要だ。

 なお、今後、台風の目となるであろうファーウェイのユニークな自動車関連産業への進出戦略については別の機会に紹介することにしたい。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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