自分の演技は満足してない だからこそ乗り越えたい
同じ俳優の道を選んだ以上、父の存在と向き合わずにはいられないはずだ。前出の叔父・俊介も23歳でデビューした当初、「窪塚洋介の弟」と言われることに辟易(へきえき)した時期もあったと打ち明ける。
「兄貴は好きだし別に嫌じゃないけど、やっぱり鬱陶(うっとう)しいですよね。その気持ちを超えられたのは30歳前後になってから。いま弟のRUEEDとよく言うんです。『愛流はよくあの感じでいられるね』って。兄貴の話をされることは多いだろうし、でもすごく真摯(しんし)に答えている。まあ心のなかでは『くそっ』って思っているかもしれないけど(笑)」
俳優として、息子として、父のことをどう思っているのだろう? あらためて窪塚に聞くと存外にてらいのない答えが返ってきた。
「憧れていました、ずっと。この人にはなれないなと小さいときから思っていたし、いまも思います。でも彼は彼だけで十分。父にはなくて僕しか持っていないものもあると思う。だから父とは違う道を行こうと思っています。いろんな経験を経て僕にしかない魅力を磨きたいし。それに僕の世代になると父のことを知らない人も多いんです」
事実、一作品ずつ手探りで、新たな壁や課題を乗り越えてきた。最新作の映画「恋を知らない僕たちは」で感じた進化を伝えると「嬉しいです」と、顔をほころばせる。
「これまで自分の演技を見るのがちょっと気持ち悪かったんです。慣れていないせいもあるのですが、必要以上に演じすぎてるのかな、とも感じていた。『恋を知らない~』では良い意味で演じることをやめた、みたいな感覚がありました。だから完成した作品で自分で自分を見ても、初めて眉間に力が入らなかった(笑)」
そしていま初舞台へとたどり着いた。叔父・俊介が出演する舞台を見て「挑戦してみたい」という気持ちが湧いてきたのも理由だ。「稽古が始まってから毎日、凹(へこ)んでいます」と苦笑いするが、それでも少しずつ役を掴みつつある。
「だんだんボクAっていう役が体に入ってきてるというか。普段家にいるときの感情と、戦場にいるAとの感情が重なっているな、と感じるときがあったりもして。まだまだ本番までに形が変わっていくと思います」
俳優のおもしろさも少しわかってきたという。
「自分の演技にはずっと満足していないんです。でも、たぶんそれは俳優をしていくなかで切り離せないものだと思います。それがなくなったら逆に終わりじゃないかなって。それに僕は学生時代から何かに対してがんばっていたことがなかったんです。陸上や習い事もやりたくないと思ったら辞めていました。でもこの仕事は初めて、自分の思い通りにならなくてすごく悔しかったとしても『諦めることをしたくない』と思えるんです。だからこそ、乗り越えたい、みたいな。自分を一番成長させてくれるものってこれなのかなって」
俊介もそんな甥(おい)っ子の姿を見守っている。
「愛流の素直さや真摯さはきっともう演技にも出ているから、そこに狂気みたいなものが混在してほしいなと思いますね。窪塚洋介がやってきたような狂気ではなく、愛流の持っている闇や狂気を見てみたい。この仕事ではそういう部分もプラスになりますから」
愛に溢(あふ)れた「窪塚ファミリー」に支えられ、窪塚はまだまだ先を目指す。
「僕は父親に夢をもらったんです。役を演じている父は、体は父だけれど中身が全然違う。俊介くんもそうです。それをシンプルにかっこいい!と思って、俳優になることが夢になった。そしていまここにいられている。そのことをありがたいな、と思います」
愛が流れるという名のとおり、俳優という仕事を通して、人になにかを渡せればと願っている。
「僕、人に何かをするのがすごく好きなんですよ。プレゼントをあげたり、もらったものをシェアしたり。だから演技を通してちっぽけでも、誰かのなにかの力になりたい、って思います」
その想いはきっともう、誰かに渡っている。
(文中敬称略)(文・中村千晶)
※AERA 2024年9月16日号に加筆