医療従事者を目指して

 そんな次女も高校生になり、大学のオープンキャンパスに行く時期になると、医療系の学部ばかり調べていました。医療従事者になるというのは、母親としてはとても嬉しかったですが、我が家の環境が次女の選択肢を狭めてはならないと思い、もうひとつの候補だった国際系の学部も調べた方が良いと勧めてみたものの、「将来の仕事として考えた時に、自分のしたいことから外れる」とのことでした。ある日、こんなことを言いました。

「やっぱり、うちの環境でいろいろ知ってしまうと、きょうだいはきょうだいなんだよ。私の場合は私もNICU(新生児集中治療室)で助けてもらったわけで、海外で働くのは私でなくてもできるけど、周産期医療の現場では私にしかできないことがある気がするんだよね。だから、もうこれで良くない?」

 次女が幼少期から抱える大きな葛藤を乗り越えた瞬間のように見えました。

 受験を直前に控え、出願書類の自己PR欄は、「この環境で育った私にしかできないことがあると信じています」という言葉で終わっていました。親は応援することしかできませんが、私もそう信じて見守ろうと思っています。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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