その一人が、『福田村事件』というノンフィクションを地元の小さな版元(崙書房出版)からだした辻野弥生(82歳)だ。
辻野のことを、安田は安易に主婦といった肩書では紹介せず、ノンフィクション作家として紹介している。この本の他には一冊の著書しかないにもかかわらずだ。
〈同書の取材を開始したとき、すでに70歳を超えていた。(中略)。そんな辻野が、罵声を浴びても、取材を拒否されても、あきらめることなく現場を歩いた。同業者として、私はただただ頭が下がる思いだ〉
先人たちの仕事をリスペクトするということ
昨年の夏、NHK NEWS WEB問題の議論が沸騰していたとき、NHKのある幹部からこんな相談をうけたことがある。
「NHK NEWS WEBの記事にリンクをつけたらばどうだろうか。たとえば参考になる読売の記事に飛ぶようにするとか」
このとき私はこんなふうに答えている。
「NHK NEWS WEBが民業圧迫になると批判をしている新聞社にのみはるのではなくて、基本は読者つまり視聴者のためにリンクをはればいいと思う。参考にした本や原典となる資料にとぶようなリンクだ」
本来、ドキュメンタリーは参考にした本があるのなら、テロップ等で出典を明らかにするのが、視聴者のためになる。放送でそれが難しいのであれば、まさにウェブでやったらばいいのではないか。
そう言ったのだった。
たとえば企画ドキュメンタリーの場合、参考になる種本があることが多い。それを参考文献として番組終わりのテロップで流すのは、担当者の胸三寸にかかっているのだが、これは参考にしたのであればきちんと明示すべきだ。
以前、自分の本が明らかに参考にされているにも関わらず放送でもウェブでもまったく言及がなかったことがあった。「ノンフィクションであれば、そういう事実があったということだから、参考文献として触れなくとも問題ない」ということをNHKの中の人が言っているのを聞いて愕然としたことがある。