水野仁輔氏監修の『食の辞典シリーズ 調理科学×カレーの事典』は、文字通りカレーを科学的に探究した事典だ
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 近年、世界の料理界でも注目を集めているのが「うま味」。「第五の味覚」とも呼ばれ、日本人が特に繊細に感知するという説もある。確かにうま味は、塩味や甘みのようなわかりやすい味とは異なり、えびや魚介類など、よほど風味が強くて特徴的なうま味でない限り、はっきりと味を感じることは難しいかもしれない。

 そのうま味をカレーに潜ませるとしたら、何を加えればいいのか。カレー専門の出張料理人として知られる水野仁輔さんが、自身が監修した『食の辞典シリーズ 調理科学×カレーの事典』で詳細に解説している。本から引用しつつ、紹介したい。

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 カレーの裏側にひっそりと身を潜めているけれど、実は影響力の大きい存在。それが「うま味」です。うま味の足りないカレーと比較すると、うま味が十分なカレーには深い味わいがあります。

 うま味が指し示すものは広く捉えられることもありますが、主にアミノ酸(特にグルタミン酸)を指します。ここでは、イノシン酸やグアニル酸などはもちろん、滋味深さを生む原因となる味を総称して「うま味」と呼ぶことにしました。

 うま味調味料や、その類が使われている市販の調味料類だけでなく、素材そのものから抽出できるうま味もあります。「なぜかうまい」を生むアイテムです。

 例えば、「昆布」のうま味。日本料理において、グルタミン酸のうま味を出すのに重宝されています。風味はそれなりにあるものの、カレーはスパイスの香りなどが強いため、食べ手に気づかれずにうま味を生むのに適しています。味を全体的に丸くする効果もあるので、エッジのきいたカレーよりも調和のとれたカレー向きです。

「カレーに昆布だし」はメジャーではないかもしれない。でも、「見えないおいしさ」としては効果的

「えび」はグルタミン酸を多く含む素材です。乾燥した干しえびの場合、サイズが小さいため、水で戻したりうま味を抽出したりするのにそれほど長い時間を要しません。甲殻類特有の風味を強く持ち、個性が出やすいのは昆布と違う点です。好みによりますが、カレーの性格をはっきりさせたければ、少量でもしっかりと深い味が出せる干しえびは、だしをとるのに効率のいいアイテムといえます。入れすぎには注意したほうがよさそうです。

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昆布よりえびよりブイヨンより