深夜の救助活動(静岡県警地域課の公式Xから)

エネルギーは筋肉の伸縮によって消費される。なので、運動すれば体温が上がり、汗をかいて下げようとする。ところが、中高年になると筋肉量が低下し、若いときと同じ運動をしても体温を上げる力も弱くなる。

「先の調査で、低体温症で亡くなった人の多くは60代、70代の登山者でした。年をとると体温調節機能が低下し、低体温症のリスクが増す。そのことを理解しておく必要があります。経験や技術を過信することは危険です」(同)

半数が転倒による遭難

 静岡県警によると、開山期間中の昨年7~8月に富士山で起きた静岡県側の遭難は、前年同時期よりも14件多い61件だった。遭難者数は16人多い64人。遭難者のうち、60代以上が全体の3割を占めた。

 今年は7月10日(開山日)から28日までの遭難者は24人。そのうち半数の12人が転倒による遭難だった。

「70歳くらいの方も結構、登られています。ただ、ご自身が思っているほど体力がなく、登山技術が衰えているのではないか、と感じることがあります。ちょっとした岩場でバランスを崩して転倒し、それが重大な遭難につながってしまう恐れがある」(大橋さん)

救助ヘリはすぐには来れない

 富士山で救助を要請しても、救難ヘリが飛来することは少ない。国内の山のなかでは富士山の標高は圧倒的に高く、気温の高い夏場は特に、空気の密度が低い。そのため、救難ヘリが現場上空でとどまることが難しく、人力による救助が基本になる。

「人力による救助には最低でも5、6人は必要です。ところが、1日に3件、4件連続して遭難が発生することがある。増援部隊を送り出しますが、3番目、4番目の方は、通報を受けてから救助に向かうまで、かなり時間を要する。救助を求めてもすぐに駆けつけられない場合もあります。無理のない登山をしてほしい」(同)

低体温症の恐ろしさを語る山岳医療救助機構の大城和恵医学博士=本人提供

無理だと感じたら引き返して

 ちなみに、昨年夏の遭難者の75%が県外からの登山者で、外国人は16%だった。

 特に、山小屋に宿泊せずに夜通し登り続ける「弾丸登山」は、日中に登る通常の登山よりも疲労や病気、転倒などによる遭難のリスクが高い。

 大橋さんはこう強く訴える。

「県外や外国からやってきた登山者は、『せっかく来たのだから』と、悪天候でも登ってしまう。気持ちはわかりますが、すでに今年は静岡県側だけで4人の方が亡くなっている。無理だと感じたら、あきらめて引き返してほしい。そう、強く思います」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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