一つは、アフリカの国が民族ごとに分断される事態が起こり得るのかが気にかかっているからだ。マリは広大な地域を抱える国であるがゆえ、多くの異なる民族を内包している。この点は、マリほどではないにせよ、植民地支配をしていた旧宗主国の勢力範囲をそのまま国境としている多くのアフリカ諸国にも通じる。だが、旧宗主国からの独立と民族自決は、必ずしも一致していない。実際、2011年にはスーダンから南スーダンが分離独立を遂げた例もある。
仮にマリ北部が分離独立するような事態が生じるならば、西アフリカのマリ周辺国の国境線にも、大きな影響が及ぶに違いない。私は、マリの南北問題は、マリに留まらないと思っている。
もう一つは、マリに散見されるテロリズムの動向が気にかかっている。これまではかろうじてマリ国内に留まっていたが、今年になってから、1月には東に接するブルキナファソの首都ワガドゥグで、そして3月には南に接するコートジボワールで、外国人を狙ったテロ攻撃が発生している。いずれも、マリ北部から南進した勢力の一部による犯行だと言われている。テロの飛び火が西アフリカにどれだけ広がっていくのか否か、気が気でならない。
マリの問題は、マリだけの問題ではない。現在のマリが抱えている困難な状況は、西アフリカの国々に、テロをはじめとしたさまざまなかたちですでに影響しはじめている。広くアフリカに魅せられた私としては、マリの行方が、気になってしかたがない。
「ユウイチ、次はいつ来るんだい? マリの人々は(辛い日々に)泣いているよ。ユウイチが話を聞くべき人が、たくさん待っている。ユウイチ、次はいつ?」
昨年、マリのモプチに住む友人のハミドゥから、電話でそう言われた。
武装勢力による南進以降、2013年から今年にかけて3度にわたって、マリを訪ねた。これからしばらくの間、マリの人々の声と生活をお伝えしていきたい。
岩崎有一(いわさき・ゆういち)
1972年生まれ。大学在学中に、フランスから南アフリカまで陸路縦断の旅をした際、アフリカの多様さと懐の深さに感銘を受ける。卒業後、会社員を経てフリーランスに。2005年より武蔵大学社会学部メディア社会学科非常勤講師。