和美さんの家族写真。上が今は亡き両親、下が幼い頃の和美さんと弟(以下、写真はすべて和美さん提供)
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 マルチ商法にのめりこむ親のもとで育ち、経済的困窮や親子断絶といった凄絶な人生をおくることになった人たちを追う連載「マルチ2世~“商業カルト”で家庭崩壊~」。連載第4回では、マルチにハマった末に命を絶った母の「かたき討ち」を誓う2世を紹介する。

【写真】和美さんが悔やむ、母への最後のLINE

※マルチ商法の概要やその問題点については、第1回の<母親が“洗脳”され家庭崩壊した「マルチ2世」の悲劇 毎度の食卓で「黄や緑の錠剤」を飲まされ…>で詳報しています。

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 和美さん(仮名/40代・女性)の母は、自身と家族の「健康」に並々ならぬ関心と情熱を注いでいた。昔から民間療法や健康商材が大好きで、和美さんの弟の皮膚疾患を治そうと荒れた肌に海水をかけ、和美さんの頭が良くなるようにと魚の脂の成分が入ったサプリを飲ませた。一度、和美さんが腹痛を訴えた時は、20万円のオルゴールを買ってきて“オルゴール療法”を試したこともある。

 健康商材の中には、マルチ商法で販売されている製品も多く、母は商品を買うために進んでマルチ企業の会員になった。セールストークが苦手だったこともあり、マルチ会員としての販売・勧誘活動には熱心でなかったが、その反面、製品を売りつけられる“カモ”になっていた。

「母は二言目には『お前の体調のため』と言って健康商材を買い込んでいました。私は『まずいからいらない』『それが愛情だと思ってるん?』と反抗したし、父も『またこんなものを買って』ととがめていました。当時銀行員だった母は『自分のお給料で買うんだから何が悪いの?』と不満そうでしたが、当初は、家計にも家族仲にも、目立った問題はなかったんです」(和美さん)

ガンの再発におびえ、“ヨウ素水”にハマり込む

 だが、父が60代で若年性認知症になったことを機に、母は暴走した。

 病院での標準治療は“悪”だと考えていた母は、400万円のオルゴールを父に聴かせ、自力で認知症を治そうとした。だが、散歩中に失禁するまで症状が進行したことで、病院に連れて行かざるを得なくなった。同時期に母自身も乳ガンが発覚し、手術を受けて完治したが、再発におびえるようになったという。

 そして2019年に父が亡くなると、「後を追いたい」とふさぎこんだ母は、破滅への一歩とも知らずに、マルチ企業・Z社が販売する“ヨウ素水”にハマり込んでいく。

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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