マルチ商法にのめりこむ親のもとで育ち、経済的困窮や親子断絶といった凄絶な人生をおくることになった人たちを追う連載「マルチ2世~“商業カルト”で家庭崩壊~」。連載第2回では、一度は「母のために」と自らマルチ企業の会員となったものの、今は母との“絶縁”を願う2世を紹介する。
※マルチ商法の概要やその問題点については、第1回の<母親が“洗脳”され家庭崩壊した「マルチ2世」の悲劇 毎度の食卓で「黄や緑の錠剤」を飲まされ…>で詳報しています。
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きっかけは、洋裁の専門学校で知り合った人からの紹介だった。
佳織さん(仮名/30代後半・女性)の母は、40年にわたり老舗マルチ企業・X社の販売員として活動している。佳織さんが生まれる少し前に勧誘を受け、「子どもには体にいいものを与えたほうがいい」「成功すれば子や孫にも資産を残せる」といった話をされるうちにのめり込んでいったという。
「X社の製品だらけの家に対する違和感は、昔からありました。私は小学生のころアトピーだったのですが、病院から処方される薬を飲んでいいのは症状がひどい時だけで、基本的にはX社のサプリや浄水器の水を飲まされていました。健康のためにプロテインも毎日出されたんですけど、本当にまずくて……。同じX社製品の“オレンジジュースの素”を混ぜて、なんとか飲み干していました」(佳織さん)
X社の勧誘の場で行われる“実験”
料理をする時はX社のIH調理器を使い、ガスコンロも炊飯器も電子レンジも「使っちゃダメ」というのが家のルールだった。ごはんはX社製の鍋で炊くが、冷めてもレンジは使えない。そのため、底に水をためた鍋にクッキングシートを敷き、その上で蒸した。
佳織さんは一度、風呂場に置いているX社のボディソープの中身を市販品に入れ替えてみたが、母はまったく気づいていなかった。とにかくX社の素晴らしさを妄信し、「感謝を忘れない」といった創業者の言葉を紙に書いては、家の中にベタベタと貼っていた。
そんな母は、毎月のように自宅に知り合いを集め、“料理教室”を開いていた。X社の鍋で作った料理のおいしさをアピールし、“実験”によってX社の浄水器の性能を説いた。
「水道水にこの試薬を入れると色が変わるけど、X社の浄水器の水に入れてみると……ほら、無色透明のままでしょう!」
最後に、X社の販売員になれば、製品を売ったり販売員を増やしたりすることで収入を得られると勧誘するのが、お決まりのパターンだった。