佳織さんが花嫁道具として母に持たされた、X社製の鍋

 母はそんな調子で連日セールスや勧誘活動に明け暮れていたため、きょうだいがいない佳織さんは学校から帰るといつも一人で過ごしていたという。

「母とどこかに遊びに行った記憶はないですね。その代わりに父が、私の友人たちも一緒に遊園地に連れて行ってくれるなど、少しでも普通の家庭らしくなるよう努力してくれました。私の前で母を叱責する姿もみせなかったので、小さいころはX社のことを深刻に考えていませんでした」

佳織さんがX社会員になった理由

 だが高校生になった佳織さんが、X社についてネットで調べてみると、「ねずみ講のようなもの」といった否定的な声をいくつも目にした。母は何か怪しいことしているのかもしれない……。疑念を抱いたが、恥ずかしくて誰にも相談できなかった。

 佳織さんが成人を迎えると、X社の販売員やその家族が集まるセミナーに連れて行かれた。成功した販売員たちが、今のぜいたくな暮らしぶりとX社の素晴らしさを口にするたび、ざっと数百人ほどいる会場は、「わー!」と歓声や拍手で湧いた。佳織さんの目には、「通販番組のようなオーバーリアクションで、ちょっと怖い」と映った。一方、母は成功者が語るキラキラした世界にあてられた様子で、以降、ノートに「年収1000万円以上」「毎月海外旅行に行く」といった目標をつづるようになった。

 しかし、現実は厳しかったようだ。

 母はなんとか勧誘を成功させようと、相手へのプレゼントとしてX社のせっけんやサプリを大量に買い込んだり、知り合いにセールスの手紙を送ったりしていた。

 それでも月末になると、帳簿の数字とにらめっこ。いつも数字に追われて疲れていたのか、病気がちで生気がなかった。その姿を見かねた佳織さんは一時期、母の勧めに従ってX社の会員になり、製品を買うことで“援助”した。

「自分が買うと、紹介者である母にリターンが入るんです。抵抗感はありながらも、少しでも母が目標売り上げを達成する助けになればと思って買いはじめました。卓上しょうゆが1瓶1000円するなど、どれも高額だったので結局やめちゃいましたけどね」

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佳織さんの夫や友人にも勧誘