小川公代(おがわ・きみよ)/1972年、和歌山県生まれ。上智大学外国語学部教授。ケンブリッジ大学政治社会学部卒業。グラスゴー大学博士課程修了(Ph.D.)。専門は、ロマン主義文学、および医学史。著書に、『ケアの倫理とエンパワメント』『ケアする惑星』ほか多数(撮影/小山幸佑)
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 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

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 家制度が確立し、女性の生き方が制限された明治時代に生まれた小説家・野上弥生子。自身の語学力や教養、主婦としての生きかたを、先駆的な仕事にどう生かしたのか。「ケア」をテーマに研究を続けてきた英文学者である著者の小川公代さんが弥生子の人生に惹かれた理由はどこにあったのか。『ケアする惑星』が話題の英文学者が、文学、映画、アニメ、音楽──現代の表現と野上弥生子を結ぶ、新しい文学評論となった『翔ぶ女たち』。小川さんに同書にかける思いを聞いた。

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『ケアの倫理とエンパワメント』『ケアする惑星』など、文学をケアの視点から読みとき、注目されてきた小川公代さん(52)。

『翔ぶ女たち』では明治から昭和にかけて活躍した小説家・野上弥生子(のがみやえこ)とその作品を、松田青子、辻村深月、アニメ「水星の魔女」、映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」といった現代の作品とともに論じている。

「2013年、私の母校でもあるイギリスのケンブリッジ大学で開かれた、ジェイン・オースティン『高慢と偏見』200周年記念学会での発表がきっかけで、野上弥生子の作品に出会いました。日本で最初にオースティンの翻案小説『真知子』を書き、夏目漱石の弟子でもある弥生子の知名度は、海外で上がっているんです。弥生子の作品はまだ英訳されていませんが、日本語が読める研究者は次々に論文を書いています。私も弥生子に関する論文をいくつも書いてきました」

『翔ぶ女たち』
(1760円〈税込み〉/講談社)
家制度が確立し、女性の生き方が制限された明治時代に生まれた小説家・野上弥生子。自身の語学力や教養、主婦としての生きかたを、先駆的な仕事にどう生かしたのか。「ケア」をテーマに研究を続けてきた英文学者である著者が弥生子の人生に惹かれた理由はどこにあったのか。『ケアする惑星』が話題の英文学者が、文学、映画、アニメ、音楽──現代の表現と野上弥生子を結ぶ、新しい文学評論だ

 大分県臼杵市から15歳で上京した弥生子は、明治女学校に入学。同郷の野上豊一郎と結婚することを自分で決め、東京で暮らし続けた。夫を介して夏目漱石と出会い、『縁(えにし)』を22歳で発表してから99歳で亡くなるまで、現役の作家として活動した。

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声を奪われたたくさんの女性がいたことを忘れてはいけない