2024年、夏。今年も甲子園で高校球児たちの熱戦が繰り広げられている。第106回全国高校野球選手権大会の名シーン、名勝負を振り返る。今回は、8月21日の神村学園(鹿児島)-関東第一(東東京)について。
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息を呑むその瞬間を、球審は一呼吸も、二呼吸も置いてジャッジした。
「頼む……そう願うだけでした。アウトの感覚はあったんですけど、もしかしたら、セーフになっちゃうかなという思いもあったので」
絶対にボールは落とさない。その一心で「両手で捕りにいった」直後、関東第一の捕手である熊谷俊乃介は一瞬の「間」ができた球審のコールに耳を傾けた。
関東第一が1点リードで迎えた9回表だ。岩下吏玖、上川床勇希の連打で神村学園の反撃にあった関東第一は、2死一、二塁と攻められる。そのピンチで、エースナンバーを背負う坂井遼は、代打の玉城功大にセンター前ヒットを浴びる。三遊間寄りに守備位置を変えていた遊撃手の市川歩が証言する。
「坂井の球威を考えて、三遊間を詰めていました」
速球に対して、左打席に立つ玉城は窮屈な打撃になるだろう。そう踏んだ守備職人の判断だった。打たれた瞬間は「まずい……」。一瞬、自らのポジショニングを後悔した。
冷静だったのは、中堅手の飛田優悟だ。頭上を越える飛球はない。そう考えていた飛田は、自らの前に弾き返された打球に対して、素早く一歩目を踏み出すことができた。
「1点を取られたら同点。絶対にアウトにしようと思った。(打球に対して)チャージをかけられたので、その勢いでホームに投げた」