市職員、鳥獣被害対策実施隊員、警察とともにクマによる人身事故の現場検証をしているところ。中央が近藤さん=2023年5月、秋田市(写真:秋田県提供)

「集落の山際など条件の悪い農地を手放す人も多い。集落は縮み、その分クマがまた迫ってくる。民家の傍の森も伐採などの手が入らなくなり、鬱蒼として集落をのみ込み、クマが家のすぐ裏でお昼寝できてしまうような状況もあります」

 河畔林の手入れも費用などの問題で十分に行われなくなり、生い茂った河畔林やヤブが、人目に付くことは避けたいクマにとって都合の良い「通り道」になり、集落まで行きつきやすくなっている現実もある。

 どうクマと向き合うか。秋田県では2020年、「秋田県野生鳥獣管理共生ビジョン」を作った。目指すのは人とクマの「棲み分け」。タイトルに「共生」の文字はあるものの、近藤さん自身は「共生」「共存」という言葉には違和感を持つという。

「『都会の人受け』『愛護団体受け』する言葉です。朝カーテンを開けたらそこにクマがいてという毎日を送る地域の人たちからすると、『お手手つないで仲良しこよし』的なそんな言葉は生ぬるく響く。私は『棲み分け』を積極的に使うようにしています。人とクマがそれぞれの地域できちんと分かれて暮らす。そこが目指す理想です」

「人の生活圏における人身事故」を防ぐためには、(1)出没(=人の目があるところにクマが出てくること)を抑え、遭遇リスクを減らす(2)出没した場合に備えて、追い払いなどの対応をする体制を整える(3)人身事故が起きたときはきちんと調査を行い、次の事故防止に役立てる、が基本的な考え方。中でも近藤さんは、(1)の「クマに人の生活圏に来ないでもらう」ことがまずは大事だと言う。

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2024年8月26日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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