秋田県鹿角市で昨年、県自然保護課が設置した自動撮影カメラに映ったツキノワグマ。橋など人の生活圏にも出没していることがわかる(写真:秋田県提供)
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 日本各地で増えているクマによる被害。以前と異なるのは、人の生活圏での事故が増えていることだ。その背景には何があるのだろうか。AERA 2024年8月26日号より。

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「畑で作業中の男性がクマに襲われ、大ケガをしました」

 こんなニュースが、もはや日常だ。日本各地でクマによる人身被害が急増、環境省によると昨年度の被害者は過去最多の219人(死者6人)。今年も8月6日時点の速報値で48人(死者2人)が被害に遭っている。

 中でも、推定4400頭(2020年4月時点)のツキノワグマが生息する秋田県は被害が深刻な自治体の一つだ。2013年度からの10年間、年平均で11・2人がクマの被害に遭ってきたが、昨年度の被害者は過去最高の70人。全国の被害者数の3分の1を占め、今年も9人が被害に遭っている。

「10年スパンで見ると確実に人身被害件数は増えています」

 こう話すのは、秋田県自然保護課・ツキノワグマ被害対策支援センターの近藤麻実さん(40)。北海道の研究機関でヒグマの研究に携わり、2020年に専門職として同課に赴任した。近藤さんは現状について、「件数だけではなく、事故が起きている『場所』が問題だ」と話す。

「クマが暮らす山林での人身事故の件数は今も昔もさほど変化はありません。一方で『人の生活圏での事故』が増え、件数全体を押し上げるようになったのが2010年代以降の傾向です」

 山菜採りの文化が根強く、山林での事故は多かった秋田県。「人の生活圏」での事故も増えてきたのはなぜか。「人とクマとの距離が近くなってきた」ことが原因だと近藤さんは言う。

「クマはクマらしく暮らしているだけ。人間の暮らしの変化にクマが柔軟に対応してきた。キーワードは『人の撤退』です」

過疎化でクマ増える

 全国でも過疎・高齢化が進み、廃村、廃集落も増える一方の秋田県。人がいなくなる地域は自然とクマの生息地になっていく。人が一歩下がるごとに、クマが一歩前に出る。そんな状況がじわりと進んでいるのだ。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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