査察が7月の最も暑い雨期に当たったため、主要な目的地だった公園の中心部にある2つの巨大洞窟に辿り着くまでに、密林の中を6時間近く歩くことになりました。洞窟内部の地形や危険を知り尽くしている専門家に付き添ってもらわねば、命を危険にさらしかねません。私たちに同行してくれたのは、この洞窟へのツアーを専門にしているOXALISという会社のマネージャーであり、英国洞窟協会の専門家ホワード氏に率いられたベトナム人スタッフのチームでした。
かくして私、IUCNのエキスパート、ユネスコの現地オフィスのスタッフ、ベトナム政府側のスタッフと、私たちについてくれるライフガード10名、そして我々の荷物、3日分の食料、簡易トイレのテントを運んでくれるポーター20名、料理人2名の、50人近いパーティー編成となりました。
1日目、ドロップオフ(下車)地点から降りしきる雨の中を歩き始めて2時間くらいで、自分の背丈より高い草をかき分け、雨で泥と化した道なき道を滑りながらの行軍になりました。ホワードさんが、「ここですでに脱落する人も多い」と言っていましたが、おそらくこの道の険しさで、この先に恐怖を覚えるからではないかと思います。
6時間の歩行中、洞窟に入る前に休憩をとりましたが、その時にホワードさんが私に、「トイレに行って、服の下にヒルが入っていないかどうか見た方がいい」と言いました。
私は何も感じないと思いましたが念のためチェックしたところ、見事にヒルに食われていました。機密性の高い山歩き用の服を着て全身を覆っていたはずなのに、下に着ていたTシャツはスプラッター映画のように血だらけ。ヒルは原始的な動物のようですが、人が動くだけで体温を感知できるのだとか。
お昼は、世界遺産になってからも登録地域に居住を続けている少数民族バンドンの村落でいただきました。料理人さんの作ってくれたそのご飯の美味しさにびっくり。並みのレストランよりも上でした。オレオやチョコパイもおやつに持ってきてくれてあって、甘いもので気力を回復しました。
午後も続けて数時間歩き、最初の目的地「エン洞窟」に着いたのが午後4時近くでした。先に到着したポーターさんたちにより、なんとテントもトイレもすでに綺麗に建ててあり、リビングのようなテーブルでお茶もいれてもらい、ほっと一息つきました。