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 伝えるのは、「母も母の人生を歩んでほしい」ということではなく、今のちうるさんの正直な思いです。

 僕の相談に書いてくれたことですね。

 今までの母親との関係は「共依存」という状態だったこと、母の為なら死んでもいいと本気で思っていたこと、でも自分は母の半身だったと感じたこと、自分が本当に好きな物を選んでいなかったこと、それらすべてを書きます(中学校の時のメールの話は書かない方がいいと思います)。

 そして、私は「共依存」から抜け出すために、しばらく母親との距離を置きたいと伝えるのです。「心配しないで下さい。これは『遅れてきた反抗期』です」なんて書くのがいいと思います。

 でも、母親は納得しない可能性が高いでしょう。メールか手紙を読んで、すぐに「『共依存』なんかじゃない」とLINEか留守電を残すかもしれません。

 それでもいいと思います。ただ嫌って無視しているんじゃない、もう二度と会わないから黙っているんじゃないと、母親に伝えれば、ちうるさんは少しは楽になるんじゃないかと思います。

 親子が自立することは、多かれ少なかれ、痛みを伴います。

 標準的には、十代から二十代の前半に、子供は「親に言えない大切な秘密」を持ち始め、何度かぶつかり、ゆっくりと「親離れ」していくのでしょう。

 親も、「親離れ」していく子供と接しながら、自分の人生を考えて、ゆっくりと「子離れ」していくのが、最も痛みの少ない形だと思います。

 ちうるさんの場合、母親共々、この時期が遅れたことによって、「親離れ」「子離れ」の痛みが大きいのでしょう。

 だからこそ、「母親を無視しているつらさ」を感じては辛すぎると思います。無視しているんじゃない。個人として自立するために、「遅い反抗期」の時期なんだ。私はゆっくりと「親離れ」しているんだと母親に伝えれば、無視する痛みは減るんじゃないでしょうか。そして、「親離れ」する痛みに限定することができるんじゃないかと思います。

 「どうしても嫌われたくなくて、逃げてしまっています」と、ちうるさんは書きますが、今、強引に「親離れ」「子離れ」することが、やがて、お互いが個人として向き合い、良好な関係になる一番の近道だと僕は思います。

 やがて将来、母親の態度が変わってきたら、「お母さんの好きなことは何?」「やりたいことはないの?」なんて自然に会話できる日がくるかもしれません。

 それまでは、踏ん張って、「親離れ」を続けることがいいと僕は思います。ちうるさん、どうですか?

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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