本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版)

【鴻上さんの答え】

 ちうるさん。とても大切なことに気付いたんですね。素晴らしいと思います。「ほがらか人生相談」には、「毒親」の相談は毎月送られてきますが、「共依存」の相談は送られてきたことはほとんどありません。はっきりと「共依存」と書いた相談は、5年ほど連載していますが、ちうるさんが初めてじゃないかと思います。

 それは、「毒親」に対して「共依存」は自覚しにくいことが一番の理由だと思います。「毒親」の有形無形の暴力は分かりやすいですが、「共依存」の「お互いがお互いの首を真綿でゆっくりと締めていく状態」は、親も子も気付きにくいからでしょう。

 でも、ちうるさんは気付いたのですね。

「母が誰よりも大切で守りたくて、母の為なら死ねると本気で思って」いたのに、「母の半身になっているような感覚」を自覚したのですね。

 その結果、「男は信じられないという強い思い込み」や「自分が本当に好きな物を選んでいない」と分かったのですね。

「共依存」は、どちらかが一方的に相手に頼るのではなく、お互いがお互いの半身になることです。つまりは、二人で一人、自分という個性を手放して、二人で一人の人間になろうとすることです。もちろん、そんなことは目指すべきではないし、そんな状態は不健全で不幸だと思います。

 「共依存」になった理由を、ちうるさんは、「理解者として自分の存在価値に安心していた」と書きます。この言葉や「母の半身」という表現に、僕は唸りました。「共依存」の状態と理由を的確に自覚しているちうるさんは、本当に聡明な人だと思います。

 さて、ちうるさん。「直接気持ちを伝えるしかないでしょうか」と書かれていますが、僕も同じ思いです。

 ただし、伝えるのは一度だけ。なおかつ、会って伝えるのはハードルが高いと思います。

 今、ちうるさんはゆっくりと「親離れ」を始めている時期です。今、母親に会って「思いのたけ」を語ろうとしたら、母親の強力な磁力に引っ張られて、うまく言えなくなるんじゃないかと心配します。中学時代のメールの怒りも思い出して、いろんな感情に振り回されて、余計なことまで言ってしまう可能性があると思います。

 メールか手紙がいいんじゃないでしょうか。

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