鴻上尚史さん(撮影/写真映像部・小山幸佑)
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 母と離れて、自分と母が「共依存」していたことに気が付いた29歳女性。幼いころに両親が離婚し、母の半身となってともに生きてきたため、母との距離感に悩んでいるという。そんな女性に、鴻上尚史が送った「強引にでもお互いが「親離れ」「子離れ」をするべき」の真意とは。
 

【相談230】母から離れて初めて「共依存」であったことに気が付きました。母親と程よい距離感の関係になりたいです。 (29歳 女性 ちうる)

 鴻上尚史さん。人生相談はもちろん、たくさんの本を読ませていただきました。悩んでいた18歳頃、すごく励みになりました。ありがとうございます。

 今回ご相談したいのは、母との距離感です。母が「毒親」というよりは、私と母の「共依存」です。現在29歳で、恋人と生活しています。彼と同棲するまで、ずっと実家暮らしでした。両親は14歳の時に父のギャンブル依存が原因で離婚し、それからは母、兄、私の3 人暮らしでした。現在の恋人と会うまでは、私は母が誰よりも大切で守りたくて、母の為なら死ねると本気で思っていました。母がひとりになるから結婚もしないと思っていました。

 しかし恋人ができ、初めの頃は母に嫌われたくなくて早く家帰っていたものの、彼の強引な性格に引っ張られ、段々と家にいる事が減り、流れのまま同棲が始まりました。母から離れて気がついたのは、私が母に依存していたという事。母の半身になっているような感覚で、理解者として自分の存在価値に安心していたのだと思います。

 また、離婚してから母に聞かされた父の悪口の影響が強いという事。男は信じられないという強い思い込みができました。服の選び方、食べ物、些細なところに母の声を感じ、自分が本当に好きな物を選んでいないことに気がつきました。さらに、中学の時に付き合っていた人とのメールを見られ、それを父と兄に見せられた事等への怒りが湧いてきました。

 現在、母と離れて数ヶ月です。

 LINEで、「お願いだから連絡をください。」「ごめんなさい」と届いていますが、無視しています。あんなに好きだった母に、実は感じていた苦痛や恨み、仲良かったが故に話しづらくなってしまった現在の関係。父のギャンブル依存で大変そうだった母を、私が支え、笑わせて、母の幸せが嬉しかったのに、喧嘩も反抗もしてこなかったせいで、本当の気持ちを伝えられずどうしたらいいか分からなくなっています。

 理想としては、良い距離感で自分は自分として生き、母も母の人生を歩んでほしいのですが、そうするにはやはり、直接気持ちを伝えるしかないでしょうか。どうしても嫌われたくなくて、逃げてしまっています。鴻上さん、自分の人生を生きて行くために、背中を押してほしいです。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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