本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版)

【鴻上さんの答え】

 自分の気持ちがわからないさん。大変ですね。名前が長いので「気持ちさん」にしますね。

 さて、気持ちさん。マッチングサイトで出会ったんですね。

 僕は、日本人がマッチングアプリで出会うようになって、良かったと思っています。

 それまで、日本人の出会いのほとんどは「職場」「友人」「学校」の三つしかありませんでした。職場を通じて知り合うか、友達の紹介を通じて知り合うか、学校関係を通じて知り合うかしかなかったのです。

 僕はNHKBSで「cool japan」という番組をやっているのですが、10年近く前、外国人と日本人に「どうやってパートナーと出会いましたか?」というアンケートを取りました。その当時、日本人は見事に前述した三つだけでした。

 一方、外国人は「銀行の窓口に並んでいて」とか「公園のベンチで」とか「飲み屋で」とか、さまざまな出会いがありました。

 これは、僕がいつも言っている「日本人は自分の『世間』の人の紹介がないと出会えない。知らない人、つまり『社会』の人は、出会いの対象とは考えていない」という分かりやすい事例です。

 「世間」というのは、自分が知っている人の世界ですね。

 その反対語が「社会」で、自分が知らない人の世界です。

 マッチングアプリによって、「日本人も、『世間』の人の紹介ではない人と出会い、交際を始める」ということが起こり始めたのです。

 これは、日本人の人間関係を根本的に変えていく大きな変化だと僕は思っています。

 当然、大きな変化ですから、初期はいろいろとゴタゴタします。今、人類がスマホやAIとどうつきあったらいいか分からず、ゴタゴタしているのと同じことですね。

「世間」の人から誰かを紹介されることの利点は、「その時点で、人物保証がある」ということです。

 誰も、「金遣いが荒くて、すぐに暴力をふるう」なんて人を、友達に紹介はしないでしょう。

 紹介する方も、一応、責任を感じて、自分が分かる範囲で、「紹介する人物はまともかどうか」を確認するでしょう。

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