スポーツウェアとしての課題
同社グローバルアパレルプロダクト本部の田島和弥さんはこう語る。
「盗撮防止機能自体はありがたくても、パフォーマンスに影響があれば、選手には敬遠されてしまう。その両立がずっと課題でした。スポーツウェアとして優れた機能と赤外線盗撮防止を両立しました」
赤外線カメラは目に見えない赤外線をとらえて可視化する。赤外線は目に見える光よりも透過性が高いため、ユニホームの下に着用した下着や肉体が写ってしまう。ミズノは20年ほど前から赤外線盗撮を防止するユニホームの開発に取り組み、生地を分厚くしたり、金属を吹き付けたりするなどして「透け」を防ぐ製品を開発してきた。
だが、重い、伸縮性が劣る、吸汗性が悪いなど、スポーツウェアとしての性能に課題があり、それほど広まらなかった経緯がある。
新開発の生地は、近赤外線の吸収に優れた鉱物を練り込んだ特殊な糸を使い、吸汗性や柔らかさ、軽さ、快適性などを犠牲にすることなく、赤外線盗撮防止を実現した。実現まで、「糸に練り込む鉱物の割合や生地の設計などを変えて試作を繰り返した」という。
まずは最も汎用性の高いシャツから実用化したが、現在、パンツやタイツなど、さまざまな競技種目の動きに特化した仕様の製品も開発中だという。学生選手でも手が届くように、価格を抑えた製品も準備中だ。
「アスリートのみならず一般の方が安心してスポーツを楽しむことにもつながると思います。パリ五輪を通じて広めていきたい」
「盗撮はあかんよね」
一方で、社会的な課題をこう語る。
「『盗撮はあかんよね』という世間の意識を高めていくことも必要だと思います」(同)
前出の工藤弁護士は、こう語る。
「アスリート盗撮に対して社会的な関心や問題意識が低くなれば、また被害が増加することを懸念しています。今後も、啓発活動や注意喚起を継続することが大切です」
スポーツ写真が切り取る奇跡の一瞬は、観客たちの心に残る、貴重な記録になる。
「写真撮影は、スポーツの自然な楽しみ方の一つです。選手やその家族、写真家を含む多くの観客にとって、『かっこいいスポーツ写真』は喜びです。ごく一部の不適切な行為をする人の存在を理由に、それを奪ってはいけないと思います」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)