豪遊散財せず社会還元
当然ながら、多額の収入を得たが、当時の多くの成金のように豪遊贅沢に散財せず(芸者遊びや骨董収集など嫌いではなかったようであるが)、冒頭で述べた養育院の運営や予防接種事業への寄付のみならず、佐野常民の博愛社(のちの日本赤十字社)や生活困窮者の無償医療に貢献した高松凌雲の同愛社事業、高木兼寛の東京慈恵医院(現・東京慈恵会)、癌研究会(現・がん研究会)の設立などにも尽力した。
つまり、富を得た者はこれを社会に還元するという「Noblesse Oblige(ノブレス オブリージュ)」を、身をもって実践したのである。
第二次大戦後、財閥解体と華族制度の廃止、累進課税や農地改革で、戦前のような篤志家による寄付はあまり期待できない。あまりに極端な経済格差を生む社会が良いとはいえないが、こういった桁外れのお金持ちが医学・医療のみならず、あまりお金につながらない基礎科学、芸術や様々な文芸のパトロンとなって惜しまず資金を提供してくれるのは悪くないと思うし、ルネサンス期のイタリアや19世紀の英国、20世紀の米国のような発展が期待できるかもしれない。
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