一般社団法人デスフェス共同代表:市川望美さん(51)(いちかわ・のぞみ)/青山学院女子短期大学卒業後、IT系企業に入社。子育て支援NPOへの参画を経て、「非営利型」の株式会社「Polaris」を設立(写真:本人提供)

市川:堆肥葬の実現には、法解釈の問題や葬儀・埋葬にかかわる機関や業界、宗教法人などさまざまな関係者との議論や調整が必要になると予想されます。こうした利害の当事者に加え、幅広い世論を巻き込むムーブメントを起こす必要があると考え、「Deathフェス」を開催しました。渋谷は多様性を体現する街ですから新しい概念を打ち出すには最もふさわしいと考えました。セッションテーマを決めたり、話を聞きたい人をリストアップしたりするうち、登壇者は延べ90人ほどに膨らみました。30を超す講演や体験型ワークショップ、企画展示に10~90代の幅広い年代の方に来ていただきました。

前向きに生きるために自分事として死に関わる

小野:来場者のアンケートでは約8割の方に「満足」「やや満足」と回答していただきました。葬儀業界や医療・介護系の方も多く参加いただき、「死をもっと前向きに明るく語ったり扱ったりできることが分かり、すごく参考になりました」と評価いただいたのがうれしかったです。

市川:1年間に約150万人が亡くなり「多死社会」とも呼ばれる時代ですが、日本では「死」というと、「終活」や実家の処分という限られたテーマで語られがちです。しかし、死について考えることは周囲への感謝や他者とのつながりを意識する機会にもなります。若くて健康であることに価値が置かれ、年を重ねて生き続けることが良いことだと思えなくなっている人も多いように感じます。生きることにより前向きになるためにも、もっと自分事として死に関わることが大事だということを示すのも、「Deathフェス」の役割だと思っています。これから10年かけて、より多くの人にかかわってもらえるイベントに育てたい、と考えています。

一般社団法人デスフェス共同代表:小野梨奈さん(46)おの・りな/東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻修了後、IT企業や女性向けWebメディア運営会社を経て独立。合同会社「カレイドスタイル」代表(写真:本人提供)

小野:「Deathフェス」の開催にあたって私たちは「生きるためのDeathフェス」というキャッチコピーを掲げました。死は人生と地続きで誰にも必ず訪れます。「怖いもの」とか「不吉なもの」と避けるのではなく、かけがえのない今をどう生きるかを考える一つのきっかけとして、「死」というテーマを軸に置くのは大切なことだと思います。家族の形も多様化していく中、令和の時代にふさわしい価値観にアップデートしていく取り組みも必要だと思います。その一つとして、堆肥葬の実現に向け、年内に法人を設立する予定です。共感いただける個人や企業を増やし、この新しいムーブメントを一緒に盛り上げたい、と思っています。

(構成/編集部・渡辺豪)

AERA 2024年7月1日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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