コロナ禍に、エッセンシャルワーカーの女性たちの多くが失業した。中高年女性の中には失業した途端に家を失うような生活を強いられた人も少なくなかった。その中に、60代の女性、大林三佐子さんがバス停で休んでいるところを男性に撲殺される事件が起きた。所持金は8円。亡くなる数カ月前まではスーパーの試食販売員として仕事をしていた。

 大林さんの事件が衝撃だったのは、日本社会の停滞に巻き込まれるように人生を奪われる無数の「大林三佐子さん」がこの社会にいることを私たちに突きつけたからだと思う。そして大林さんが亡くなって3年以上過ぎ、バス停ではなくカプセルホテルに泊まれるのは「まだましなほうだ」と思ってしまうような、そんな社会を私たちは生きているのだ。

 東京都知事選が山場を迎えている。不安の強い社会で勝つのはどのような候補者なのだろう。現都知事は「不安なんてありません」とでもいうようにニッコリ不敵に微笑み続けているが、8年間の小池都政の下、女性たちを巡る環境がよくなったといえるだろうか。

   潤沢な財産をもつ都政でありながら、小池さんは福祉予算を削ってきた。派手なPRには予算がどんどん注ぎ込まれるが、地味な福祉への予算管理は厳しくなる一方で、特に女性福祉に関しては人も予算も足りていない。そういう中、私が関わる福祉施設では、30代で妊娠した女性が会社が提供する単身者用の住居から追い出され、相手の男には逃げられ、とたんに仕事を失うしかない状況が報告されてきている。30代で会社勤めの女性が妊娠をきっかけに路頭に迷う、なんてことは福祉の現場でもこれまでなかったことである。生きるか死ぬかを生きる女性たちのリアリティーは、政治でしか救えない。

 街でキレる女、仕事を失う女、希望を失う女、生活を失い、命を失う女……そんな女たちが可視化されている首都東京の地獄は選挙で変えられるだろうか。

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