「今の30歳くらいまでの人たちは、『前向き』とか夢や希望なんて言葉はまともに聞いてないと思いますよ。当然でしょう。たとえばウクライナやガザのような問題が起きテクノロジーが世界を変えてしまって、これまで問わなくても済んだ問題が次から次へと出てくる。こういう時は前向きなことを言うよりも、一旦立ち止まって考えたほうがいいんです」
本文では、自分の体験や修行時代、さまざまな人との出会いなどのエピソードを通じて、生きづらい人々に語りかける言葉が並ぶ。人間や人生とは「そんなもの」であり、襲いくる困難をやり過ごし、肩の力を抜いてゆっくり歩けばいいとささやくようだ。そんな南さんのところには、以前から悩みを聞いてほしいとさまざまな人が訪ねてくる。
心配なのは最近の若い世代に暗い話をする言葉の力が落ちていることだという。いわゆる「いい大学」を出て「いい会社」に勤めている人が南さんを前にしても自分のつらさを語れない。「明るく楽しくしていないといけない」という強迫観念があるのだろうか。
「こちらがあれこれ想像しながら言葉を引き出さないといけない。私は感情って液体だと思っていて、言葉という器がないと味も匂いもわからないし、人には通じないんです」
今、人々は頑張っている。頑張りすぎて心身を壊すほどに。順調な人でも人生には必ず何かが起きる。そういう時に何か考える糸口が欲しい。
「だから『かかりつけのお坊さん』を作ればいいんですよ」
当面、その代わりになってくれそうな本である。(ライター・千葉望)
※AERA 2024年7月1日号