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小学2年生のときに母が再婚し、私たちは一気に豊かになった。妹が生まれて、大きな一軒家に引っ越して、犬を3匹も飼った。母はヨガやゴルフを嗜むようになり、いつの間にか私に暴力を振るわなくなった。生活が華やかになって母が私に割く時間が減ると、私はなぜか、彼女に見放されるのではと怯えるようになった。

自分が母にとって邪魔な存在になってしまうという強迫観念に取り憑かれ、母を引き留めたい一心で学業に力を入れた。成績が上がるとなんとなく強くなったような気持になって、今度は私を殴っていた母を恨むようになり、酷く反抗した。

自室にこもりがちになっていた高校生の頃、リビングから父と母の言い争いが聞こえてきた。私はいつもの悪い癖でドアの隙間から口論を盗み聞きしていた。父が母に向かって「稼げないんだから文句言うな」と叫んだきり出ていき、一人になった母はすすり泣いていた。
 

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いつもなら知らない振りをするけれど、珍しく泣いている母を放ってはおけず声を掛けに行った。彼女は私に気づいて、「お前はたくさん勉強して良い仕事に就いて、男に頼らず生きていきなさい。お母さんみたいになるんじゃないよ」と無理に笑った。

その言葉で私はすっかり心を折られてしまった。私にないものすべてを持っていると思っていた大好きな母が自分自身を否定したことも、彼女を侮辱した父のことも、ほんの少しの勉強で何かをわかった気になり自己中心的に母を憎んだ自分のことも許せずぐちゃぐちゃになった。

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