GW中に早稲田大学で行われた報道実務家フォーラムで。サブリーナ・ダルヤナニ(右)と長崎勇太(左)も「デジタル収益拡大へ FTが歩んだ道のりと編集局の変革」の題でセッションを持った。(撮影・大野洋介)
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 このコラムがまだ週刊朝日に連載されていた時代に、PIANOという会社についてとりあげたことがある(2022年8月19・26日合併号)。

 英エコノミスト誌や週刊文春電子版、文藝春秋電子版などにデジタル購読のシステムを提供している会社だ。そのコラムを読んで、日本のある出版社の社長がコンタクトをとってきたことがあった。彼の会社のシステムは、2000年代のガラケー時代のままで、せっかくユニークなコンテンツを提供しているのに、紙の定期刊行物の部数は減り続け、なんとかならないかとPIANOのことについて聞いてきたのだった。

 そこで日本のPIANOの代表を彼に紹介したが、結果からいうと商談にはならなかった。PIANOは課金のシステムや、分析のツールを売る会社で、コンサルはやらないからだった。DXが極端に遅れている会社だと、そもそもパンフレットの言葉の意味がわからない。DXを成功させるためには、ダイヤモンド社のように(2023年8月14・21日合併号8月28日号)、組織そのものを大幅に変えていかなければならないがそのやり方がわからない。

 そんなことを経験していたので、英国のフィナンシャル・タイムズ(FT)がメディア向けのコンサルビジネスを始めたと聞いた時に、これは需要があるのではないかと思った。日本の地方紙もそれを利用しているという。

 が、一方でうまくいくのかと半信半疑だった。そもそも英国のFTと日本の地方紙では条件が違いすぎる。

 ここ数年日本の地方紙は、ようやくデジタル有料版を始めているが、その会員数は十勝毎日新聞などの例外をのぞき2000もいっていない。

 対するFTは2002年にはデジタル有料版を始め、2022年には有料会員数が100万を突破している。

 そもそも、参考になるのか? そんな疑問を実際にFTのコンサル部門FT Strategiesが行った「サブスクリプション・アカデミー」に参加した地方紙の幹部に聞いたところ、「よかった」という。聞いてみると、FTのやりかたを教えるわけではなく、それぞれの新聞社がどうすれば、サブスク事業を育てられるのかをコンサルするということのようだった。

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。標準療法以降のがんの治療法の開発史『がん征服』(新潮社)が発売になった。元上智大新聞学科非常勤講師。

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