「BM工場の質が悪いのは僕らのなかでは常識でしたよ。本社の優遇は異様でした」
10年ほど前から損害調査業務を担う地方の保険金サービス課(保サ課)で働く中堅社員の男性は振り返る。保サ課では事故の受け付け、査定業務、支払いを担う。ただBMの場合、2019年から査定業務が本社に一元化された。これもBMに対する「プレゼンスアップ」の一環だった。以降、各地の保サ課がBMに関与するのは保険金支払いと入庫誘導だけになったという。
BM案件は問答無用で支払う
だが、本社から送られてくる支払い額は明らかに高いものばかりだった。相場のおおよそ1.5倍は当たり前だった。一般的には10万円以下で済むプリウスのリアバンパーの交換が、BMの場合だと12万〜13万円で請求されていたという。
「他の工場だったら電話で確認を入れたり、アジャスターが現地に訪問したりといった対応をとっていますね。本社はBMの見積もりをそのまま認めているのではないか、とみんな疑っていました」
ただ、BM案件は「問答無用」で支払うのが暗黙の了解になっていた。本社に指摘すれば、自分たちの業務量が増えてしまう。
一方で、男性は事故にあった契約者にBM工場を紹介していた。
新車の場合はディーラーで直すのが大半だが、それ以外では工場を知らない契約者も多い。「初動」と呼ばれる受付段階で、こうした顧客に保サ課が工場を紹介する。男性の場合、「きれいに直してくれる工場があるのでぜひ紹介させてください」という文句で案内していた。理由は、BMへの紹介数が、男性や保サ課が評価される要素になっていたから。
本来、営業の論理で損害調査部門が歪んではいけないが、各保サ課には連日、営業メールが送られ、入庫誘導の件数アップを迫られる。男性も、東京海上や三井住友海上に比べ件数が少ないと、ハッパをかけられていた。