この記事の写真をすべて見る

 不正の発覚で露呈したビッグモーター(BM)と損損害保険ジャパンの「蜜月関係」。熾烈な契約獲得競争のなかで手を染めることになった「禁じ手」とは? BMに対して施されていた異常な優遇処置を、近刊『損保の闇 生保の裏』(朝日新書)から一部を抜粋して紹介する。

【写真】蜜月に黄色信号が灯るのはこちらのお2人

* * * 

 ビッグモーター(BM)による不正の疑いが浮上して以降、損害保険ジャパン、東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険の3社は、紆余曲折もあったが協調してきた。2022年6月、BMへの事故車の紹介を停止し、6月末を期限に自主調査を要請した。

 だがその後、損保ジャパンは致命的な判断ミスを犯すことになる。不正の疑いに目をつぶり、いったん停止した誘導を再開させてしまうのだ。その背景には、長年にわたる両社の「蜜月関係」があった。
 

完全査定レスという「禁じ手」

 事故を起こしたとき保険会社から「オススメの工場があります」と言われれば、自分がまさか自賠責獲得の「バーター」に使われているとは普通思わない。ただ、仮に営業の材料に使われたとしても、工場の質さえよければまだ許せるかもしれない。

 だが損保ジャパンは数字欲しさゆえに、最低限の節度すら見失った。それが「完全査定レス」の導入だ。

 工場から修理の見積もりが来た際、通常はアジャスターという専門社員が関与する。日本損害保険協会の試験に合格した損害査定のプロで、工場や事故現場を訪問したり、画像をチェックしたりして事故の損害額や原因、状況などを調査する。

  損保ジャパンは工場の質を「S」「A」「B」「C」の4ランクに分けていた。上位の「S」「A」は顧客対応や修理技術が優れているとし、顧客に紹介可能な工場となる。

 損保ジャパンはさらに「S」の一部で、アジャスターの関与を省略できる「簡易調査」を認めていた。修理部分の画像と見積書を送ってもらうだけで、アジャスターが中身を具体的に吟味することなく、原則、そのまま合意する方法だ。

著者プロフィールを見る
柴田秀並

柴田秀並

しばた・しゅうへい/1987年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。2011年、朝日新聞に入社し、現在は経済部記者。金融担当が長く、かんぽ生命保険の不正募集などを取材。社会部調査報道班に在籍中は国土交通省の統計不正や同省OBによる人事介入問題の取材にも携わった。著書に『生命保険の不都合な真実』(光文社新書)、『かんぽ崩壊』(共著、朝日新書)がある。

柴田秀並の記事一覧はこちら
次のページ
BMをオススメ工場に