損保ジャパンはBMに対し、「完全査定レス」とアピールしていた。

 「BMパートナー制度」の名のもと、2016年、BMの全工場を将来的にこの対象となるよう提案し、技術的な支援に乗り出した。BM工場は次々と「S」を獲得していき、わずか3年で全工場で「完全査定レス」が実現した。

「全工場は完全査定レスとなり大幅に業務効率が上がります。入庫から納車までノンストップで完了することができ、お客様に最短日数で納車することが可能になります」

 BMのBP(板金・塗装)本部部長(BP部長)は当時、社員に対しLINEで満足げなメッセージを送っている。だがこの「蜜月」はもろいものだった。

 「完全査定レス」を含めた簡易調査では、工場の「言い値」で修理代金を請求されかねない。損保ジャパンはこれを防ぐため、事後的なモニタリングを導入していた。事故案件をサンプル抽出し、自社で見積もりを出してみる。これと工場側が実際に出してきた見積もりを比べ、どれぐらいの金額差があるかを調べる。「乖離検証」と呼ばれ、7%を超過する乖離率が2期続けば、簡易調査の対象から除外するとの方針が決められていた。

 だがBMに対し完全査定レス導入後、まともに乖離検証をしていなかった。見積もりのサンプルについて規定項目を形式的に事後チェックする「簡易診断」にとどまった。

営業部門がランク付けに介入

 しかも営業部門が損害調査部門に対し乖離率を低くするよう働きかけている。損害調査部門がBM工場をBランク以下にしようとしたが、営業が介入し、ランクは結局維持された。

 少なくとも乖離検証を翌年度以降も続けるべきだったが、「コロナ禍」を理由に実施されず、簡易診断のみとなる。この簡易診断でも異常さが際立った。20年度は全工場の約8割にあたる 24工場が「不良」、翌年度には全工場が「不良」と判断された。

 BMが請求する修理費の単価も急上昇。この時点ではすでに社内で「過大な請求ではないか」との疑念が浮かんでいたが、「オススメ工場」として顧客に紹介し続けた。

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「BM工場の質が悪いのは常識でした」