「孫の世代にこの国を残すために」とお金にならない地方自治の学習会を続けている。孫の琴羽ちゃんを抱いて(撮影/本人提供)
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「会いたい人に会いに行く」は、その名の通り、AERA編集部員が「会いたい人に会いに行く」企画。今週は「地方自治改革が日本を救う」と訴えている元地方議員に、還暦記者が話を聞きました。

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 実は、佐野辰夫さん(60)から原稿の売り込みを受けたことがある。文章は粗かったけれど、そうなんだ、知らなかったと、何度もうなる内容だった。とはいえ、著者は知名度のない元地方議員。売れるかどうかと検討をした結果、申し訳ないけれどと、佐野さんに原稿をお返しした。でも、その後も気になっていた。

 政治家としては、挫折した人だ。政治を変えたいという思いで東京の就職先を辞めて地元の佐賀に帰った。地盤も看板もカバンもなく、とりあえず自民党県議会議員の事務所に飛び込んで秘書になった。自民党から出馬して佐賀市議を2期、佐賀県議を2期務めたが、本人は市民派を掲げ、市民目線で行政を追及し続けた。県議として知事や県を批判すると、身内の自民党からヤジが飛び、やめるよう忠告を受けた。地方政治の旧弊や暗黙の了解の壁が厚かった。

 政治を変えることに限界を感じて県議の3期目に出馬せず、政界引退。まだ40代での引退は不思議がられた。カネ集めは下手で、実は選挙のたびに借金が膨らんでいた。

 民間企業に勤めるようになっても、「地方政治はおかしい」という思いは消えなかった。地方自治の歴史や制度についての資料や書籍を買いあさり、研究を重ねた。

 そしてわかったのは、日本の地方制度が、欧米と比べるとかなり特殊で、議会の権限が極端に小さいことだった。

 日本では地方議員と首長を別々に選挙で選ぶ「二元代表制」だが、西欧では地方でも議院内閣制、つまり議員から首長を選ぶ制度が多い。自治体が提案する予算案や条例案を議決するだけの日本の地方議会とは違い、予算案や法案を議会が作るのも一般的だ。

 起源を探ると、戦後の日本国憲法の作成にさかのぼった。マッカーサー草案では地方自治について「住民は彼らの財産、事務及び政治を処理し(略)彼ら自身の憲章を作成する権利を奪われない」と書かれていた。それが日本国憲法の対応箇所では、「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる」に化けた。主役が「住民」から「地方公共団体」に変わり、地方政治の在り方である「憲章」を作る権利も奪われた。

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