「アカイリンゴ」のロケ現場で。主演の小宮璃央は「西山さんがいると、現場の空気が変わる。彼女が『私はこう思う』と監督に積極的に話すので、全体に話し合う雰囲気ができるんです」と語る(撮影/鈴木愛子)
「アカイリンゴ」のロケ現場で。主演の小宮璃央は「西山さんがいると、現場の空気が変わる。彼女が『私はこう思う』と監督に積極的に話すので、全体に話し合う雰囲気ができるんです」と語る(撮影/鈴木愛子)

■うるさいと思われても言うべきことは言う

 ICの仕事は、撮影前から始まっている。西山はロケに入る前、主演の小宮璃央(20)やヒロインの川津明日香(23)と一対一で話し、性的なシーンの内容を説明するとともに「性的な演技をどこまで許容できるか」をヒアリングした。川津は「撮影の時はまず『今日はももさん来る?』と確認し、来てくれるとほっとします」という。

「監督に『そのシーン、そこまで脱ぐ必要はありますか?』など、ももさんがプロの意見として言ってくれて、とても心強い。仮に私がそう思っても、わがままと受け取られそうで言葉をのみ込んでしまうと思います」

 昨年12月には、西山やプロデューサー、監督らによる性的なシーンの打ち合わせが行われた。西山は台本を見ながら一つ一つの場面について、俳優はどの程度肌を露出するか、体の接触はあるかなどを確認していく。

 複数のカップルが映るシーンでは「男性同士、女性同士のカップルがいてもいいのでは」と提案し、男性が女性のストッキングを破るシーンでは「男性目線のファンタジーだよね。お金がかかるから、いちいち破かないでほしい」と苦笑。主人公がスカートの中を盗み見て興奮するシーンについては、はっきり「私個人としては、不適切だと考えます」と表明した。

「やっと盗撮や痴漢は犯罪だという認識が社会に浸透し始めたのに、ドラマでそれらを連想させる表現が許されると、加害に免罪符を与えかねない。SNSの炎上リスクもあります。この作品は思い切った性描写に挑む分、不用意な表現で傷つくのはもったいない」

 ICの西山は、現場で監督やプロデューサーに「ものを言える」数少ない女性でもある。だからこそ「うるさいと思われても、言うべきことは言う」ことを自分に課している。

 異性愛にばかり焦点を当てることで「やはり同性愛は社会に認められない」とLGBTQの当事者を取り残してしまわないか。痴漢や盗撮、同意のない性行為を助長しないか。「強いヒロイン」の設定なのに、性描写だけ受け身になるのはあまりに男性目線ではないか。ストーリーに集中しがちな制作陣に、性犯罪などの社会情勢も踏まえた視点を提供するのも、役割の一つだと考えている。ただ「ICの一義的な仕事は、俳優の尊厳が守られ、安全な環境で撮影されているかを確認すること。意見はしますが、最終的な判断は作り手である監督にお任せしています」とも語った。

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