阪神時代、サヨナラ安打を打った新庄選手(右)と握手する野村監督

野村監督と重なる「個より組織」の戦術

 日本ハムを取材するスポーツ紙記者は、こう分析する。

「新庄監督は、ああいった走塁でのトリックプレーに就任1年目から春季キャンプで重点的に取り組んできました。ただ、選手たちの頭と能力が追い付いていない部分があった。一朝一夕でできるものではなく、経験を積むことで精度が高まり、実戦での成功率が上がっています。新庄監督は走塁と守備の緻密さを求める。個々の能力でかなわなくても、組織で相手を倒す。亡くなった野村克也監督の指導論である『弱者の兵法』と重なる部分があります」

 野村氏は南海、ヤクルト阪神楽天で監督を務め、歴代5位の通算1565勝をマーク。ヤクルトではデータを駆使するID野球でリーグ優勝4度、日本一3度と黄金時代を築き、阪神、楽天でも後に優勝するチームの土台を作った。若手の育成や他球団でくすぶっていた選手を覚醒させる能力に定評があり、ヤクルト時代は小早川毅彦、田畑一也、廣田浩章、阪神は遠山奨志、成本年秀、楽天では山崎武司が「野村再生工場」で花を咲かせた。

 現役時代に野村監督から薫陶を受けた指導者は多い。ヤクルトの古田敦也元監督、真中満元監督、阪神の矢野燿大元監督、楽天・石井一久元監督、西武・辻発彦元監督、渡辺久信GM、中日の与田剛元監督、日本ハムの稲葉篤紀GM、昨年のWBCを制覇した侍ジャパンの栗山英樹前監督ら、豪華な顔ぶれが選手時代に指導を受けた。現役の指揮官でも、ヤクルト・高津臣吾監督、ロッテ・吉井理人監督、そして新庄監督がいる。

 新庄監督は阪神時代の99、00年と2年間、野村監督の下でプレーしている。当時の阪神を取材したスポーツ紙記者は振り返る。

「野村さんと新庄はキャラクターが全く違うので、野村さんが監督就任前は波長が合わないのではという懸念がありました。ところが、野村さんの考える野球に新庄が積極的に取り組み、非常に良好な関係性でした。春季キャンプで新庄の強肩を生かした投手兼任プランが大々的に報じられた時、野村さんが上機嫌だったことを覚えています。新庄は華やかなイメージが強いですが、陰で誰よりも練習するタイプでした。努力家で野球観が近い2人は似た者同士だったのかもしれません」

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新庄監督の長期政権で黄金時代の可能性?