担い手確保も課題
担い手の問題もある。指定避難所は自治体が開設し、生活環境の改善も自治体に努力義務として課されているものの、実際の運営や細かなルール整備を自治体職員がすべて担うのは不可能だ。上島さんは続ける。
「市町村合併などで自治体職員は減り、合併自治体ではもともとその地域を知る職員が配置されていないという事例も少なくありません。避難所の環境をよくするには、結局担い手を見つけるしかないんです。地域のなかで、例えば消防団のような担い手になり得る選択肢を複数見つけておく。あとは避難所の立ち上げからクローズまでを一貫して理解している外部からの支援者を養成する。そうした社会全体の底上げが必要です」
災害支援団体「レスキューストックヤード」常務理事で、避難所運営支援などを専門とする浦野愛さんも、「運用力とマンパワー」を避難所運営の課題に挙げる。
避難者が運営に参加を
浦野さんは能登半島地震の発災直後から穴水町に拠点を置き、活動してきた。穴水町でも「食事」「睡眠」「排泄」の最低限の環境が整うまでに3週間から1カ月を要した。ただ、浦野さんによると、「制度自体はある程度整備されている」という。
災害救助法が適用されると、避難所での食事や寝具の提供には国の予算が用いられる。例えば食事は1人1日1230円が基準で、調理環境の整備、食材の調達、担当者の人件費などもこの予算で賄うことができる。また、能登半島地震ではトイレ事情が各所で大きな問題になったが、凝固剤などの物資は備蓄されているケースが多かった。
「穴水町の場合、市内にセントラルキッチンを用意して一斉に調理し、各避難所へ配送するシステムをつくることで、何とか『パンやおにぎりを配るだけ』という状況を脱することができました。ただ、災害後の行政はパンク状態ですし、地元業者もほとんどが被災しているなかで段取りを整えるのは簡単ではありません。トイレについても、凝固剤をうまく使えば処理できる状況だったのに、適切な使い方を周知できる人がおらず、溢れて使えなくなってしまったという例が多くありました。こうした細かい環境整備は避難者自身が担ったほうがうまくいくケースが多いですし、実際私たちが声をかけると積極的に参加してくれる人が多いのに、そうした取り組みが十分にできていないんです。予算制度などのシステムをいかにうまく運用していくか、NPOのような支援者や避難者自身のマンパワーをどう生かすかが課題だと思います」
もうひとつ、意識の変革も必要だろう。避難者自身が、「避難所は不自由なもの」と我慢を当たり前のものとして受け入れてしまっている現状がある。避難所を開設する自治体職員の側も同様だ。過去に取材した被災地の職員は「避難所が快適だと被災者が出て行かない」とまで話していた。ただ、避難所は我慢を強いられながら命をつなぐ場所ではない。災害で家を失った人が、次の一歩を歩み始めるまで、健康で文化的な生活を送るための場所だ。社会全体での取り組みが求められている。(編集部・川口穣)
※AERA 2024年5月20日号より抜粋