これだけ性器のサイズと、挿入時間が取り沙汰されるのは、セックスを男性器中心に考えていることの表れでもあります。挿入こそがセックスで、それは射精で締めくくられるというイメージは男性だけでなく、実は女性にも広く共有されているのではないかと思います。女性が「セックスは好きではない」「気持ちよくなったことがない」というとき、それはたいてい挿入行為のことを指しています。「前戯は好き」「挿れる前までは気持ちいい」という女性は少なくありません。

「いつまでも元気でいなければならない」という思い込みを、男性が早々に捨てたほうがいいのは、これは裏を返せば「元気でなければセックスできない」ということになるからです。先述したように更年期に差し掛かったということは、生殖機能の終わりを意味します。女性は平均50歳で閉経を迎えますが、男性ははっきりとしたピリオドが打たれるわけではありません。それでも思うように勃起しなくなり、挿入できても射精まで勃起を維持できなくなり……といった具合に、性機能が次第にフェイドアウトしていきます。その時期は個人差が大きく、50歳前後だとまだ実感できない人も多いかもしれませんが、いつかは勃たなくなる日がくるのです。「勃起・挿入・射精ができない」=「セックスできない」となり、自縄自縛の状態に陥ります。そのことを恥と感じ、知られたくないと思いパートナーに触れなくなる男性もいます。これを相手が「自分に魅力がなくなったからだ」「何か悪いことをしたのかもしれない」と受け取って、知らない間に距離が開いていく……これはとても寂しいことです。

宋美玄(そん・みひょん) 1976年生まれ。産婦人科医。日本新生児周産期学会会員、日本性科学会会員、日本産婦人科学会専門医。『女医が教える 本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)がシリーズ化するなどヒット作多数。書籍や雑誌、テレビ・ラジオに出演し、女性の性や妊娠について積極的に発信を続けている。ほかの著書に『少女はどこでセックスを学ぶのか』(徳間書店)、『生理だいじょうぶブック』(小学館)、『セックス難民~ピュアな人しかできない時代~』(小学館新書)、『産婦人科医宋美玄先生が娘に伝えたい 性の話』(小学館、カツヤマ ケイコとの共著)など多数。

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