乗京真知(のりきょう・まさとも)/1981年、福井県生まれ。朝日新聞福井総局長兼国際報道部員。少年期をブラジルで過ごし、神戸大学法学部で国際関係論を学ぶ。イスラマバード支局長、アジア総局員、国際報道部次長などを経て現職。著書に『追跡 金正男暗殺』がある(写真:本人提供)

 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【写真】『中村哲さん殺害事件 実行犯の「遺言」』

 長くアフガニスタン支援を続け、現地からも高く評価されてきた中村哲さんが、運転手やボディーガードたちと共に暗殺された。その背景を助手たちと丹念に取材し、徐々に事件の背後に迫る筆致はサスペンス小説を読むよう。だがこれは、現実に起きていることなのだ。国同士の水争いなど背景を知れば知るほど読後感は重いが、調査報道の価値を改めて感じる一冊『中村哲さん殺害事件 実行犯の「遺言」』。乗京真知さんに同書にかける思いを聞いた。

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 アフガニスタンでたくさんの井戸を掘り、土漠だった土地を緑の土地に変えた中村哲さん。中村さんが銃撃で命を落としてから、今年12月で5年になる。本書の著者である朝日新聞記者・乗京真知さん(43)はアフガニスタン取材中、現地の人々がどれほど中村さんの仕事を尊敬し、死を悲しんでいるか肌で感じてきた。

「現地の人はよく言うんです。『子どもの頃からよく通っていた道の両側が、カカ・ムラド(中村のおじさんの意)が来てから緑に変わっていった。その感動は何ものにも代えがたい』って。その中村さんが殺されてしまって申し訳ないと謝る人が多かった。タリバンのメンバーも含めてです」

 ガニ大統領(当時)が「徹底した捜査と真相解明」を約束したものの、だんだん尻すぼみとなって真犯人は不明のまま。混乱の極みにある国で起きた事件だからそれも仕方なかろう──と私を含め、多くの人が思っていただろうが、乗京さんはそう考えなかった。助手たちと協力して3年にわたり、事件の唯一の生存者をはじめ、警察や情報機関などさまざまな機関や関係者に粘り強く取材を続けていった。

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