寅子の同級生。男装のよねの他に華族の跡取り娘、朝鮮半島からの留学生、弁護士の妻で男子3人の母と気になる背景の持ち主が並ぶ(写真:NHK提供)

 地獄論争の始まりだ。母は「頭のいい女が幸せになるには、頭の悪い女のふりをするしかない」「だからあなたは、できるだけあなたに見合った素敵な殿方と」見合いすべしと激推しする。寅子は「愛してくれてありがとう」と言ってから、こう返した。

「でも私には、お母さんがいう幸せも、地獄にしか思えない」

 今からほぼ90年前に寅子が語った〈結婚=地獄〉説。よく言ったと拍手したくなる。分析するなら「女性の立場は変わっていないと、再認識させられる」だろう。が、それより何より「寅子は私だ」と思う。「カーネーション」以来の感覚だ。

「私たち」で平等目指す

「カーネーション」とは2011年度後期に放送された朝ドラ。ヒロイン・糸子のモデルは、三淵さんの一つ年上の小篠綾子さん。大阪・岸和田の呉服屋の長女に生まれ、洋装店を起こし、コシノ3姉妹を育てた人だ。

 この2作品の共通点は、ヒロインが現状(つまり圧倒的な男性社会)に甘んじていないところだ。ただし流れている空気はかなり違う。小学生の時から年上の男子相手に取っ組み合いの喧嘩をし、五分以上の戦いをする糸子。帝都銀行に勤める父のもと、お茶の水にある女学校で2番の成績を収める寅子。全く違うヒロインだから、当たり前ではある。が、同時に「カーネーション」から今日までの13年という歳月も思う。

 糸子はとにかくパワフルで、一人ぐんぐんと時代を切り開いていくスーパーヒロインだった。寅子も「日本初の女性裁判所長」になる人だ、パワフルでないはずがない。が、糸子よりずっと抑制的に、突出した存在というより女性同士の連携の中心にいる、そんな人物に描かれている。

 13年間で女性を取り巻く環境が好転しているとは、全く思わない。だが時代が求めているのは「スーパーヒロイン」よりも「シスターフッド」なのだと思う。「私たち」でジェンダー平等を目指す。そんな認識が寅子像に反映されているように見える。

 寅子と母の話をもう少し。甘味処で寅子は、明律大学の先生(正しくは裁判官。演じているのは松山ケンイチ)がいることに気づく。寅子は名乗り、出会った日の礼を言う。そして「母に進学を反対されている、先生ならどう説得するか」と相談する。礼儀正しく、誰にもまっすぐなのが寅子だ。

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