最も痩せていた30歳頃(写真:本人提供)

食事は生きる喜び

 その後、30代半ばにモデルを辞めて歌手になったんですがうまくいかず、1億円の借金を抱えてしまいました。食べるものも買えず、用の缶詰で食いつなぐ毎日。限界を感じてパートナーと一緒に「自殺の名所」である山梨県の青木ケ原樹海に向かったんですが、そこで遠くにソフトクリームののぼりを見つけたんです。ちょうど一つ分の小銭が残っていて「最後に食べたいね」と二人で分け合いました。こんなに美味しかったのかと、食べることのありがたさがその時ようやくわかったんです。同時に、生きる喜びも感じました。

 人生をやり直そうと思い、その後は朝から晩まで働きまくって、16年かけて借金を完済。ただ、借金返済のために食費も切り詰めていたので栄養失調で倒れてしまいました。モデル時代の無茶と働きづめで倒れた経験。この二つが私の食に対しての考え方をがらりと変えました。

 健康にいいオーガニック野菜を自分で作ろうと、茨城県つくば市に畑を借りました。育てていたのはスライスすると花びらみたいに見える小さなトマトや、紫と白の縞模様でフェアリーテイルと呼ばれるナス。見た目もかわいいし、本当に美味しいです。2009年、同県守谷市に移住して本格的に野菜作りを始めました。

 食は本当に大事。痩せれば何でもいいと尖っていた自分が嘘みたいに、気持ちが前向きに明るくなりました。野菜は土が元気じゃないと大きくならない。人間も同じです。健全な精神は健全な肉体に宿る。まさにそれを実感している毎日です。

(編集部/秦正理)

AERA 2024年5月13日号

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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