最も懸念するのが、今後30年以内に70~80%の確率で起きるとされる南海トラフ巨大地震だ。地震の規模を示すマグニチュードは8~9、最大震度は7。リニアは、山梨県以西の大部分が震度6弱以上の強震動の範囲に入る。
「地質条件によってはトンネル内でも地震動が強いし、広範囲で歪(ひずみ)・応力(力のかかり具合)の変化が必ず生じます。内壁の損傷などが起き、ひび割れた箇所から高圧の水が噴出すれば、トンネルが水没する事態が起こりかねません」
地震の揺れで大規模な斜面崩壊や地すべりも起こると予想され、路線が地上に顔を出す部分や非常口が埋没し、電力施設や駅施設なども被害を受ける。リニア路線のほぼ全域で、多種多様な大被害から小被害が同時多発する可能性がある、と石橋名誉教授は言う。
「さらに東京-名古屋間のリニアは、少なくとも6本の主要活断層帯を横切っています。活断層型地震はいつ起きるか全くわからず、活断層がずれてリニアを直撃すれば、大惨事を招くでしょう。南海トラフ巨大地震と連動することも考えられる。リニアは地球上で最も地震危険度の高い地帯に建設されていると言えます」
安全性強調されるがリスクゼロにはならず
こうした指摘にJR東海はホームページで「大規模な地震に備え、国の最新の基準を踏まえて十分な耐震性を有するように設計しています」などと安全性を強調。そして「ルート選定にあたっては、文献調査等に基づき、活断層を可能な限り回避し、通過せざるを得ない場合は、活断層をできる限り短い距離で通過するようにしております」など、本誌の取材に回答した。しかし、石橋名誉教授は、「活断層をまたいでいれば、そこがずれればアウト」だと批判し、たとえ惨事を免れたとしても、乗客の避難に困難さが伴う可能性も指摘する。
「南海トラフ巨大地震の際には、リニアの全列車の乗客が避難するでしょうが、山岳地帯でも都市部でも地下からの脱出は大変です。沿線自治体が対応を迫られますが、地元の大震災で手一杯な中で十分な人員や機材を割けるでしょうか」