避難対策について、JR東海は次のように回答した。
「山岳トンネル区間においては、避難経路には照明を備え付けており、非常用電源も確保しているため、万が一の停電の際にも安心してご利用いただけます。また、都心部の大深度区間においては、トンネル内のリニア車両の走行路の下部空間に設ける避難経路を使用し、おおよそ5キロごとに配置して、地上とつながる非常口である立坑内から階段や大型エレベーターを使用し地上まで安全に避難していただきます」
ただ問題は地震だけではない。走行ルートとその工事に伴う「生態系」への影響も、指摘されている。
「生息地の何パーセントかが失われるということは、数そのものを減らしていくことになる可能性があります」
そう話すのは、「日本野鳥の会」常務理事の葉山政治(せいじ)さんだ。
リニアは、トンネル工事による大量の残土が出る。JR東海はその残土の処分場を各地につくろうとしているが、その一つを岐阜県御嵩町(みたけちょう)に計画している。だが、予定地一帯を日本野鳥の会が調査した結果、環境省のレッドリストで「絶滅危惧II類」に指定されているタカの仲間のサシバ、サギの仲間のミゾゴイなど計18種類の希少な鳥類の生息を確認した。特にミゾゴイは日本でしか繁殖が確認されていない。葉山さんは言う。
「樹木が伐採され営巣地が減ると、個体数の減少に直結する恐れがあります」
野鳥など生態系への影響も 平穏な生活が侵害される
さらに、リニアが通過する全ての県でオオタカ、山梨県と長野県ではクマタカの営巣が確認されている。リニアが開通した場合、地上を走行する場所は騒音や振動によって野鳥に影響が出るかもしれないと葉山さん。
「土砂処分場をどこにつくるかは、地元の自治体だけでなく、地域で自然保護に関わる人たちとも議論が必要。開通後も、生態系への影響を評価しながら対応策を取ってほしい」
JR東海は生態系への影響について、「生態系を含めた環境の保全に十分配慮して工事を進めてまいります」などと説明した。(編集部・野村昌二)
※AERA 2024年5月13日号より抜粋